博多に帰ってから3日目、二人の兄貴達と三人の姉さん達と街に出て、帰りにスーパーマーケットに立ち寄った。
俺には50年目の日本のスーパーマーケットだ。入った直ぐは「サンパウロのスーパーマーケットとさほど変わらないな」と思ったが、しばらく店の中を回っているうちに品物の種類と中身が濃い(多い)と思った。
特に、興味を引いたのが缶ビールが並んだ一角だ。種類も中身の説明も、俺には理解出来ない現代の変な日本語(カタカナばかり)で記されており困った。
考えた末、「これは、飲んでみるしか方法がない」と思い、「よし!端から試しで飲んでやろう」と決めた。
早速、一個を棚から取って「プッシュー!!」と栓を抜いて飲もうとした。
突然、後ろから羽交い絞めにされ、宙吊りになってレジに連れていかれた。
後ろを見ると、兄貴と姉ちゃんだ。
姉ちゃん「何て事するとね!」
俺「どうせ払うんだから問題ないじゃん」
姉ちゃん「ここはブラジルじゃなかっちゃが、日本よ!」
兄貴が顔を真っ赤にして「すみまっせん。すみまっせん。此奴、ブラジルから今週戻ってきて日本の事情がまだ分かっとらんけん――許してくれんね。…こら! カッツオー謝らんか!」
姉ちゃんは、余りの奇行に驚き、それに滑稽さが加わって、笑いと半泣きを合わせた顔で俺の顔を狙んでいた。
この瞬間、騒ぎに集まった5人の兄弟の間に、七十数年前の泣き虫で常識外れの末っ子の俺を甘やかし、叱り、優しく宥した光景が、一瞬、蘇ったようだった。
今、あの時の大騒動を思い出して俺は涙を流して笑ってこのエッセイを書いている。末っ子って、幸せなんだなー、ほんとによかった。