さてブラジルは今、政治面では通常でも大統領選投票前1年に入って不安定な選挙モードであるゆえに、大統領の過激な言動や扇動も加わって極めて要注意。経済金融面では国内外の情勢と観測の悪化で、単に不安定である上に悲観が支配する事態になっている。
ボルソナロ大統領の評価は独立記念日9月7日後に行われたダッタフォーリャ調査でさらに悪化し、53%の劣悪評価は現大統領のものとして新記録に到達した。国内経済情勢は悪化はブラジル人の69%に、現政権下に汚職拡大を見る割合は増加して今や61%に達した。
2022年大統領選に関する調査では、どの調査でも二極化を継続し、左派のルーラ元大統領が極右の現大統領に対して優勢を保つだけでなく、その差を例えばダッタフォーリャ調査で56%対31%(決選投票)に、Ipec調査で48%対23%に拡大している。
今、インフレが加速して、その観測悪化の阻止に中銀が利上げを加速しているが、来年の経済観測も悪化し続ける。利上げが強くなるほど景気観を阻害し、一部では来年に1%以下の経済成長を観測するほどに悲観を強めてしまった。
観測悪化の反転には財政健全化の動きが欠かせないが、大統領と政界が選挙モードの中、社会補助の強化などに財政支出増加を厭わないため、投資家が不安を強めて、ドル相場を高く保持して、それもインフレ上昇に寄与する悪循環に陥っている。
ブラジル経済の回復とドル安を牽引すると国内で期待されていた世界経済、特に中国のそれは、やはり影が差し始めている。感染はデルタ株が米国などで再び危機感を強める中、国によって異なる主因を持つものの、世界的にインフレが加速している。中国では電力不足も起きて、工業活動を阻害して、景気観が確実に冷え込んでいる。
(1)国内の主要なリスク
リスクの上で前月に比較して、「国民への声明」後に大統領の過激な発言や行動が抑えられているものの、政局の不透明性を残し、来年度予算など財政リスクに関わる重要な国会審議が最終局面に入って、リスク改善に程遠い状況だ。経済金融面に見れば、インフレと金利の上昇、景気観測の悪化など、明らかなリスク悪化だ。
10月に入って、政府コロナ対策の調査に上院に設置されたCPI(議会審問委員会)が大詰めを迎えている。重大な審問はすでに終えて、担当書記が最終意見書を作成し、発表する間際だ。
その中で、大統領の容疑を列挙して連邦検察庁に捜査を推挙するはずだ。すでに本格化している選挙戦に加わる、新たな政治リスクの火種となるか、なお予断を許さない。
市場が注意を怠らない別のリスクは電力危機だ。春に入って特に南部で降った雨と、重い腰を上げて政府が採用している緊急措置は、年内の電力消費規制リスクを緩和した、と一部の専門家が評価している。
しかし水不足は深刻であり、弊害は広く多方面に及び、来年に経済的な困難が継続するとの観測が一般的だ。
ただし市場が最も不安を持つリスクは財政面だ。支出上限を超越しかねない危険性を抱える案件は少なくなく、その超越分が多大になると試算する報告も出されている。選挙向けに財政赤字と債務が肥大化することを危惧する。公共財政悪化で特に注視する案件は、政府が裁定で敗退して確定した支払い義務分の処理と改正をめぐる動きだ。
(2)国外の主要なリスク
世界経済の回復が特に中国から発してより鈍くなり、米国の財政リスクも加わった情勢を前に、リスクはさらに悪化して、全般に慎重振り、先行き不安が以前より増したと言えよう。
EU圏の鉱工業生産が7月に見込み以上(前月比1・3%、前年同月比7・7%)に拡大した。世界中でワクチン接種が進んで、観光を特徴的に経済活動が回復を強めている。それが問題も誘発している。原因は国によって異なっても、食料品を代表にインフレが進んだことだ。
さらに、以前からのサプライチェーン問題に加わって、例えば中国で電力、英国で燃料など、深刻な供給問題が個別に発生して、世界経済の回復見通しに水を差している。
世界経済を牽引する米国と中国だが、両国とも異なる深刻な問題に直面している。市場は今、3千億ドルの債務を抱える中国大手不動産会社「恒大」(Evergrande)デフォルト危機の悪影響は、米国のリーマン・ブラザース破綻のそれと同じではなかろう、と見ている。
それでもCitiが、すでに「恒大」悪影響で2022年中国GDP成長予測を5・5%から4・9%に減少した。さらに電力供給での欠陥から、鉱工業が9月に見込み外れの後退、成長観測に暗い影をなす。
米国では、上院で野党の共和党の反対で、連邦政府が部分的であれ10月下旬から機能不全になる危険性がある。それは先送り、避けられても、民主党バイデン政権の経済改革案、国家予算案がなお停滞している。
市場の注目は、まず米FRB(連邦準備制度)による資産購入計画の減少、その後に利上げ開始の時期だ。以前の観測より繰り上げて始まりそうだ。
(3)2022年に高インフレと鈍い成長(スタグフレーション)を危惧するほどに悪い条件、「完全な嵐」出現を前に進んだ市場の2022年経済観測悪化(10月1日付フォーカス)
インフレ(IPCA)が前回(9月3日付)の3・98%から4・14%に、GDPが1・93%から1・57%に悪化した。なお鉱工業生産は関心が低く、また重要性も低落して集計を停止した。なお経済省と中銀は楽観を保持し、2%台のGDP成長(経済省:2・5%、中銀:2・1%)を見込む。
インフレの上方修正が続くため、当然にSelic金利予測も7・75%から8・50%に引き上げた。ただし一部では9%台をも、例えばブラデスコが9・25%(年末ではなく最高)を見込む。他方、ドルはR$5・20からR$5・25に微増しただけだった。
なお2021年マクロ経済観測はGDPが5・15%から5・04%に下方修正し、IPCAは逆に7・58%から8・51%にさらに上方修正した。Selic金利は7・63%から8・25%にさらに上昇し、ドルはR$5・17からR$5・20にやや上昇した。なお中銀Copomが9月に6・25%に引き上げて、今年に残された2回の会合でも1ポイントづつの引上げを見込む計算だ。
(4)連続3カ月、9月に再び下落した株価
平均株価指数(Ibovespa)が7月の前月比3・94%、8月の2・48%に続いて、9月に11万0979点に一挙に6・57%さらに下落した。それには外国投資家の出超(8月に入超R$73・5億から出超R$48・4億)も寄与した。またインフレ観測、それに連れて金利観測も上昇して、確定利のものの価値も再び強く下落した。
9月20日に今年最低10万8844点を記録したIbovespaは年計も6・75%の減少だ。同指数が瞬間で10万7千点割れ、一部の専門家が買いの機会を指摘するが、全般的に悲観になお支配されている。さらにグラフ分析は10万割れの可能性も示す。国内外の様々な要素が入り乱れて、極めて読みにくい事態で、不安定振りは大きいままだ。
株が上記のような事態ならば、基本金利Selicが年6・25%まですでに上昇した今、確定利が良い運用先になるか。それは今から先のことで、チゾウロ・ジレット(Tesouro Direto)で取引される連邦債の相場が9月に約8%安に達したという。今から先でも、財政リスクや為替リスクが不透明であり、金利の不安定性、上方修正すなわち価値下落のリスクはなお継続しそうだ。
(5)強く上昇したドル相場、外貨建て資産は良い投資先か
ドル相場は政治財政リスク悪化が進んで、8月の前月比0・42%高から、9月にR$5・4394(Ptax)に一挙に5・76%上昇した。今年に計4・57%増になった。
中銀が推進するように利上げが進んで、例えば米国の金利との差が拡大するほど、投機的な外資が流入してドル相場を下げる通例だ。だが9月は逆に上昇した。利上げが進んでも投機的外資が流入しないマイナス要素が重なった。
まず国内、何よりも財政リスクの悪化だ。その背後にある選挙モードと政治と財政のリスク悪化、さらに高インフレ、深刻な水不足などだ。国外では、中国の大手不動産会社「恒大」危機と成長の減速、国際商品相場の下落、米国で金融緩和措置の繰り上げた見直し開始の観測などだ。
外貨建て資産では、金とビットコイン、ダウ平均株価、ナスダック、いずれも9月に下落した。中国の成長鈍化や米国の財政問題も、不安定期に強い金相場を未だ1800ドル台に押し上げるに至らなかった。ビットコイン下落は中国政府の規制強化などが寄与した。今年に最高を更新した米国の株価指数だが、すでに不安定期にある。
なお外為収支は9月に、前月の黒字33・27億ドルから赤字11・7億ドルに転落した。貿易為替は11・32億ドルから28・05億ドルに黒字を増加したが、金融為替が黒字25・77億ドルから赤字39・75億ドルに転落した結果だ。
9月はドル高ヘッジ手段を除いて、そろってマイナスだった。先決め金利だけでなく、インフレ・ヘッジの確定利もまたインフレ観測悪化で下落した。Ibovespa(株価指数)が8月に12万点を割った時点で株式資産買戻しを実施した私は、より大きな痛手を被った。私の金融資産残高は9月に、Ibovespa下落の牽引で前月を大きく下回ってしまった。
今後は今、極めて読みにくい。開き直って、動かずに相場の動きを見守るつもりだ。