「日本で生まれて日本しか知らない我々にとって、国家やコミュニティの捉え方の違いに、ある種の衝撃を受けました」――20日から東京で、演劇『いちばん小さな町』を公演する劇団1980の代表、柴田義之さんは過去に2度の行ったブラジル公演での体験を、そう振り返る。
同劇団は今回〝ブラジルタウン〟群馬県邑楽郡大泉町をモデルとした架空の町を舞台に、外国人住民との共生を模索する人間ドラマを描いた演劇『いちばん小さな町』を、20日から26日まで東京・六本木の俳優座劇場で公演する。
物語は、東京で妻と娘の3人家族で暮していた亀山和男が、北関東の小さな町『小清水町』にある生家の曙旅館を継ぐために戻ってくるところから始まる。
町は1990年の入管法改正で4千人の日系ブラジル人が定住するようになり、「共生」の課題と平成の不景気のために財政悪化で「町おこし」という大きな課題をかかえていた。
和男の父が先導して『サンバパレード』を実施したことで町が観光地として見直されようになって一時持ち直した。だが、02年サッカーW杯でブラジル人住民が大騒ぎを起こしたことで、地元住民の反発が強まって中止に。
和男の父は「パレードの復活を」との声を上げたところで病気のため亡くなったという経緯があったことを、帰ってきた和男は知る。
パレード復活に反対する地元の声が多いのに加え、和男の家庭では20歳の娘陽子がニートで、親娘関係にも溝が生まれていた。一般家庭や町という日常の場における、多文化共生とは何なのか。現代的なテーマをはらんだ人間ドラマに発展していく。
10月23日の終演後には、アフタートーク「大泉町に学ぶ!山あり谷あり、共生の道」として大泉観光協会の小野修一副会長、今作の脚本を務めた瀬戸口郁さん(文学座所属)、同劇団の柴田義之代表が登壇する。
問合わせは同劇団(電話=03・3321・7989)。電話の対応時間は平日12~18時まで。詳細は劇団ホームページ(http://gekidan1980.com/6.html)で確認できる。
柴田代表は2001年12月から翌年3月まで、文化庁芸術家在外研修制度によりSESCサンパウロで当地の演劇制作を学んだ。その際にアート・プロデューサーの楠野裕司さんと妻の故秋葉なつみさんに連れられて弓場農場を訪問し、「表現者として非常に感銘を受けた」という。
同劇団は過去ブラジルで2回公演を行った。2004年にアマゾン河中流のマナウスから、パラグアイのイグアス移住地までの11カ所で「素劇あゝ東京行進曲」、2008年には10カ所で「ええじゃないか」の公演を行った。
2度のブラジル国内公演を通して柴田代表は「ブラジル日系人の苦闘や喜びを芝居したい」と考えるようになり、今回の作品に結実したようだ。