10月30日付のエスタード紙などに、シリアから逃れてトルコに移り住んだ親子の写真が掲載された。今年のシエナ国際写真賞で最優秀賞に輝いた、メフメト・アスラン氏の作品だ。
最初に目に飛び込んできたのは、高々と掲げられた息子と父親が交わし合う笑みの表情だ。温かい家族のふれあいの瞬間を切り取った普通の写真かと思いきや、よく見ると、父親の体の右側に松葉杖がある事や息子に手足がない事にも気付き、息を呑んだ。
父親のムンジール・アル・ナザール氏は、シリア北西部のイドリブで爆発に見舞われ、右足をひざ上から失った。この写真では、残された右足の一部で松葉杖を支えながら、息子のムスタファ君を掲げている。
一方のムスタファ君は、母親のゼイナブ氏が妊娠中にシリア内戦で神経ガスを吸い、テトラ・アメリア症候群という症状を発症したため、生まれつき四肢がない。
ナザール氏一家はシリアを逃れ、トルコの国境沿いにあるハタイ・レイハンリーという町にたどり着き、写真家のアスラン氏と懇意になった。
母国での内戦と、それに伴う悲痛な現実を体現しているナザール氏とムスタファ君だが、写真にはそんな悲劇を乗り越えた幸福感が漂っている。
父親の胸中には、息子も含めた今後への不安などがないはずはないだろう。だが、命の危険に曝されて、恐怖と不安に囲まれた毎日を生き抜き、喜びと幸せの瞬間を味わっている様子が、多くの人の心を打って最優秀賞受賞につながったようだ。
ポ語サイトによると、ムスタファ君は電動式の義肢が必要だが、トルコでは彼に必要な義肢を提供する事はできないという。アスラン氏は、この写真が国際写真賞を受賞した事で、ナザール氏一家を支援するための国際的な取り組みが始まる事も期待している。
アスラン氏は「この写真がこれほどの反響を生むとは考えてなかった」と語っているが、何気ない親子の日常を素直に写した写真だからこそ訴えるものがあるのだろう。
戦争の悲惨さやそれを超える親子の愛、悲劇を乗り越えた喜び、幸せに目頭が熱くなる一枚。ブラジルでは2日のフィナードス(死者の日)に、多くの人がコロナ禍の犠牲者も含む家族や友人の墓参に繰り出した。
場所や形は違うが、戦いの中にいる人達の上に平穏な毎日と慰め、必要な支援をと祈らされた。 (み)