新型コロナウイルスの流行で各界リーダーの手腕が試されている昨今、サンパウロ市から北西に約520キロ離れたのどかな街―ツッパン市の青木カイオ市長(PSD:社会民主党)の活躍に世間の注目が集まっている。
史上最悪の危機
史上最年少市長誕生
2年前、人口約6万5千人のツッパン市は、史上最悪の危機に直面していた。当時の市長が解任されて生まれた政治的空白期間に、蚊を媒体とする感染症「デング熱」が過去最大の流行を記録。同市史上最多被害となる6千人以上の罹患者と6人の死者を出した。街には行政に対する不安と不信が募っていた。
2019年5月29日、当時28歳だった青木氏は、全国史上最年少市長としてツッパン市長に就任した。
青木氏は「私が市長に就任した時、ツッパンには不安定な政治による暗雲が立ち込めていました。私は行政指揮を執る中で、町を平常に戻すことに専心しました。市が本来の姿に戻るためには、行政内外の信頼関係修復が必要不可欠だったので、市内の政治的、社会的指導者と対話を重ね一致団結を目指しました」と当時を振り返る。
若き市長は、自治体運営の現場にも改革のメスを入れ、秘書の数を減らし、経費を削減。財政を刷新した。
青木氏の地道な努力と献身が市の明るい未来となって結実しようとしたその時、新型コロナウイルスが流行。再び暗雲が立ち込めた。
防疫と経済の両立
ブラジル連邦貯蓄銀行も賞賛
当初、近隣6自治体と協同してコロナ患者のケアを行ったが事態は収束しなかった。そうした中で市内唯一のサンタカーザ病院は、地元の患者だけでなく、他地域からの患者も受け入れを始めた。
青木氏は同市委員会とともに、感染者の増加と病院システムの崩壊を避けるため、衛生バリアの設置や専用病棟の設置などに取り組んだ。病棟と集中治療室の病床、呼吸器の数を増やし、患者の治療に当たった。
市内各所で衛生対策を強化し、市立研究所に新しい機器を導入して、患者の診断と治療のスピードを加速。閉鎖された病院を再活用し、養老院での高齢者ケア、感染を避けるためのテントの設置、緊急支援金を必要とする人々がスムーズに受給できる様に経済対策も講じた。
青木氏が他の自治体指導者より一歩抜きんでた評価を受ける理由は、市民の生命を守りながら、経済崩壊を最小限にとどめる対策を打ち出したところにある。法務チームの支援を受けて、商取引の運営管理の自治権を法廷で勝ち取り、パンデミックに入ってからの4か月間、同市は厳格な衛生規準に従って、商業活動を維持していた国内唯一の町となった。この措置によって、多くの会社が閉鎖の危機を免れ、様々な仕事を継続可能にした。
ブラジル連邦貯蓄銀行(caixa econômica federal)のペドロ・ギマランエス社長が、青木氏の行政手腕と市民に対する配慮を称賛、市の幸運を祝福したほどのものだった。
72%の支持を得て再選
市創設以来の最多得票記録
「私の肩書きは市長ですが、仕事内容は『街づくりマネージャー』です。私の市政目標は、市民が常に幸福であること。目標実現のためには、市民生活のニーズを知る必要があります。市民と共に生き、その立場に立って優先事項を決める。ツッパンでの生活の質が改善されるように、公的資金の有効活用に努めています」
パンデミックによって引き起こされた経済危機との戦いに加え、青木氏は市民のニーズを満たすための新しい投資計画を開始した。それにより、市の金融機能が回復し、10年間滞っていた公共工事も再開、無事に完了された。
青木氏はその実行力で大きな政治的成果を上げ、2020年の市長選では、有効票の72%に相当する2万2491票を獲得。ツッパン市民から多大な支持を得て再選を果たした。これは同市創設以来の最多得票記録であると同時に、最年少再選者記録となった。
コロナへの警戒緩めず
公共設備への投資を促進
青木氏は、新型コロナウイルスによる社会危機の再発を常に警戒しながら、市長二期目をスタートさせた。
「私たちの生活は少しずつ平常に戻ってきています。しかし、コロナウイルスの感染については油断せず、警戒し続けています。学校の授業規制が緩和されましたが、学生や教授、スタッフの健康が脅かされることなく再開できるよう努めました」。
昨年6月にはコロナウイルスの症状が見られた患者のためのケアセンターとしてウニダーデ・コビヂ(UNIDADE COVID)を開設。3ヵ月間の稼働で、市内での感染拡大防止のための重要な役割を果たした。
「近代的な公共設備への投資を進め、より効率的な行政サービスを提供できるようにしています」と自信をのぞかせた。
40万レ節約の行政改革
「ツッパン・デジタルプログラム」
青木氏の行った行政改革「ツッパン・デジタルプログラム」は、市役所の管理構造に大きな革新をもたらした。旧来の公文書や申請書など、紙を使用してきた手続きを実質的に廃止し、デジタル化。官報のデジタル配信にも踏み切り、全市民が市役所の公的活動情報にアクセスできるようになった。新システムの導入により、年間約40万レアルが節約された。
「ツッパンはデジタル都市に変化し始めています。私たちは既に行政サービスの大部分をデジタル化しました。納税者、企業、会計および建設セクターは既にデジタルサービスを導入し、行政だけでなく、全市民に経済的効率性をもたらしています。ツッパン・デジタルプログラムは今後も市民と市役所のニーズに応じて、拡大し、多様化していくでしょう」
新たな税制政策が不可欠
市長就任から様々な行政手腕を発揮してきた青木氏だが、今後の最大の課題は「経済力の強化」であると言う。
「この数ヵ月で、ツッパン市の経済状況は大きく改善したと思います。しかし、私はさらに改善の余地があると確信しています。私たちの優先事項の1つは、市の経済発展と雇用の創出です」
同市では近年、スーパーマーケットチェーンの流通センターが建設されるなど活発な投資活動が行われているが、青木氏はさらに経済活動を活発化させるために新たな税制政策が不可欠であると考えている。
ツッパン市創設92周年
10月、ツッパン市は創設92周年を迎えた。
青木氏は「『街づくりマネージャー』である私にとっての最大の歓びは、ツッパンの人々がこの街で生きることに幸福を感じ、その人生が愛や誇りに満ちたものになってくれることです。そのために、私たちはより一層の努力を重ね、ツッパンをさらに良い都市にしていきます」と、力を込めた。
(ニッパキ紙より翻訳掲載)