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■記者の目■さようなら、ニッケイ新聞!=日本語文化圏があるところに邦字紙

 さようなら、ニッケイ新聞!――。悲しいことに、本紙は本日付をもって廃刊になる。
 「寂しくてどうにもならないね」「邦字紙は我々の心の灯台だから、なんとか頑張って」などなど、この1カ月間、愛読者の皆さんから、もったいないような温かいメッセージを数限りなく頂き、本当に邦字紙記者冥利に尽きる。「ありがたい」と手を合わせて感謝するしかない。
 この3年間、ブラジル最後の邦字紙として「ロウソクの火を吹き消さないように」という心細い感覚で、注意深く突風を避けて怖々とやっていたところに、パンデミックという超巨大台風が無慈悲にも襲った感じだ。実際、ひとたまりもなかった・・・。
 だが、幸いなことに本紙とはまったく別の組織から新しい邦字紙「ブラジル新報」が発刊されるコトになった。その創刊号は1月4日付なので、それまで2週間、印刷版の邦字紙はなくなる。
 ただし「ブラジル日報」は来週1週間、ブラジル社会面の記事をだけを新サイト(www.brasilnippou.com)からテスト配信するという。サイトの記事閲覧と1頁だけのPDF版配信が試験的に行われるそうだ。その後、1週間が年末休みとなり、1月4日から印刷版を含めて通常営業となる予定と聞いている。
 世界に25紙ほどの邦字紙があるが、大半は広告を集めて無料で配るフリーペーパーだ。日本企業が多く進出し、旅行者、留学生、駐在員などの一次滞在者が数万人単位でいるアジアや北米の都市ではそれが成り立つ。
 我々のような読者の購読料に頼る邦字紙は、何万人という日本人永住者がいないと経営が成り立たない。日本は高度経済成長し、前回の東京五輪の頃から南米移住者が激減した。当時ブラジルに来た世代も、今は80代前後になった。高齢化して読者が自然減していたところにコロナ禍が直撃した。
 昨年3月末、カナダの邦字紙バンクーバー新報がまっさきに休刊を発表し、4月からWebサイトに移行した。フィリピン・マニラを拠点とする邦字紙「日刊まにら新聞」も年末に印刷版発行を終了し、1月から電子版に移行するという。
 ニッケイ新聞は廃刊するが、幸いなことに日本から出資者が彗星のごとく現れ、1月からまったく新しい邦字紙「ブラジル日報」が船出を飾ることになった。
 《捨てる神あれば拾う神あり》ということわざがあるが、それを地でいくような展開だ。減る一方の世界の邦字紙の趨勢からすれば、これは奇跡的な出来事と言える。
 邦字紙を人に喩えるなら、「重病と老衰で余命あと1年」と宣告されていたのに、突然、神さまが夢枕に立って「若くて健康な別人の身体を与えよう」と言われたような不思議な感覚だ。
 と同時に、そこで働く記者としては、襟を正して「日系社会の未来」に今まで以上にまっすぐに向き合う必要性を感じる。「移民の生活体験を書き残すという邦字紙の使命を、もっとしっかり全うせよ」とむち打たれたと言った方が良いだろうか。
 邦字紙があるところには「日本語文化圏」がある。現地語ではなく日本語で情報をやり取りしたいという強力な動機を持つ、数万人単位のコミュニティだ。一世・二世・三世を問わずこの人たちには、〝故郷〟日本に対して複雑な想いがあったとしても、強い感情で結ばれている。
 その意味で、邦字紙の存在は、日本とその国の関係のバロメーターでもあると思う。愛読者の皆さん、ありがとうございました。(深)