ニッケイ新聞 2014年2月14日
連載「リオ五輪で期待のブラジル柔道」で多くの方々に取材した中でも、10年間の無給期間含め35年以上に渡って貧困層への柔道指導に奉じる松尾三久さん(第6回)の話が印象に残った。
教室を続けるため、家族に大きな犠牲を強いてきたという。「妻は家計のためにデカセギに行かざるを得なかったし、ロクに相手をしてやれなかった末の息子は、俺の63の誕生日の前日に自殺した」。淡々と語る松尾さんは「自分がやってきたことに、意味があったかどうかなんて分からない」と何度も何度も俯き気味に呟いていた。
当地にここまで柔道が根付いたのは、松尾さんのような人の愚直なまでの努力の積み重ねの賜物だ。五輪選手という華やかなピラミッドの頂点が高いのは、その下に幅広い裾野があるから。そんな底辺を固めた移民の存在も忘れてはならないと肝に銘じた。(酒)