「(私、名前、黒澤、ある。よろ~しく、ある)」
黒澤和尚はなんとかカタ~コトのポルトガル語で答えた。
「よし、これで三人、いや、三組出来た。じゃー、出よう」
「(どこへ行けばいいのだ?)」
一番セクシーで大きなマルレニが少し怒った顔で、
「(なによ、この日本人達、なんにも分かっちゃいないわ・・・)」
「そんな費用まで考えていませんでしたし、困ったなー」
中嶋和尚はしがみついて離れないバネッサを振りほどきながら、
「だから、断りましょう!」
「(モーテルでもホテルでもどこでもいいのよ。早く出ましょう!)」
古川記者は指を折り、酔った頭で計算しながら、
「三組で三百ドル、うぁ~、あぶなーい。それに『シロゴハン』に払う分もあるしー。畜生~!」
悔しがる古川記者を見て、中嶋和尚は胸を撫で下ろした。
「(『シロゴハン』に払う分も考えると、資金不足で君達と出られなーい)」
バネッサが髪を乱して、
「(そんなこと言われても困るわ。どうにかしましょうよ)」
バネッサは少し考えてから、
「(じゃー、『シロゴハン』は私がどうにかするわ。ねー、早く出ましょうよ)」
「(ダメだ、モーテル代も無い)。 そうだ! 黒澤さん、本堂は!?」
それを聞いた黒澤和尚は髪を逆立て、
「なんて事言うんですか!古川さん!」
「そうですよね、すみませんでした」
「(モーテル代も無いの?)」
「(サンパウロまで戻らないといけないし、その分を考えると・・・)」
黙っていたマルレニが半泣きになったバネッサに代わって、
「(クレジットカードでいいのよ)」
「(そんなプラスチック製の金なんか持っているはずないだろう)」
「(じゃー、私達を放棄するなら、ここまで来たタクシー代払って、一人往復百ドルでいいわ。全部で三百ドルよ)」
「(なに~! お前とシベリアは姉妹で同じタクシーだろう? 三百ドルなんてデタラメだ!)」
「(諸経費と罰金よ。交渉後のキャンセルだから)」
「(そんなバカな、お尻にも触れずに三百ドルとは酷いじゃないか)」古川記者は酔いがさめてしまった。
「古川さん、今夜はあきらめましょう」
「お尻にも触らないで罰金三百ドルですよ。なんとかしましょうよ」
「もう、これ以上無理です!」黒澤和尚と中嶋和尚が同時に言った。
少し落着きを取戻した『吉祥天』の様なバネッサが、顎に当てた人差し指を外して、両手を拝むように合わせ、
「(・・・。こうしましょう。モーテルがダメなら、私の家に行きましょう)」
交渉疲れで、泣き面だった古川記者が目を大きく開いて、
「(君の家?)」
「(私、一人暮らしだから、でも、絶対に近所に見られないようにしてね)」。
「(で、君はいいが、彼女等はどうする?)」
「(任せて、私が説得するから)」
バネッサはマルレニとシベリアを片隅に呼び寄せ、ヒソヒソ話を始めた。時々、「(今回だけ、お願い。一度くらいこんな事あっていいじゃない・・・、だから)」「(そうね。・・・)」真剣な会議が終わって、三人が横に整列した。
「(東洋のヤボ男! 今夜は私達が心行くまで楽しむの、覚悟してちょうだい!)」
「(えっ! なんだって?)」