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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(114)

ニッケイ新聞 2014年3月11日

「(私、名前、黒澤、ある。よろ~しく、ある)」

黒澤和尚はなんとかカタ~コトのポルトガル語で答えた。

「よし、これで三人、いや、三組出来た。じゃー、出よう」

「(どこへ行けばいいのだ?)」

一番セクシーで大きなマルレニが少し怒った顔で、

「(なによ、この日本人達、なんにも分かっちゃいないわ・・・)」

「そんな費用まで考えていませんでしたし、困ったなー」

中嶋和尚はしがみついて離れないバネッサを振りほどきながら、

「だから、断りましょう!」

「(モーテルでもホテルでもどこでもいいのよ。早く出ましょう!)」

古川記者は指を折り、酔った頭で計算しながら、

「三組で三百ドル、うぁ~、あぶなーい。それに『シロゴハン』に払う分もあるしー。畜生~!」

悔しがる古川記者を見て、中嶋和尚は胸を撫で下ろした。

「(『シロゴハン』に払う分も考えると、資金不足で君達と出られなーい)」

バネッサが髪を乱して、

「(そんなこと言われても困るわ。どうにかしましょうよ)」

バネッサは少し考えてから、

「(じゃー、『シロゴハン』は私がどうにかするわ。ねー、早く出ましょうよ)」

「(ダメだ、モーテル代も無い)。 そうだ! 黒澤さん、本堂は!?」

それを聞いた黒澤和尚は髪を逆立て、

「なんて事言うんですか!古川さん!」

「そうですよね、すみませんでした」

「(モーテル代も無いの?)」

「(サンパウロまで戻らないといけないし、その分を考えると・・・)」

黙っていたマルレニが半泣きになったバネッサに代わって、

「(クレジットカードでいいのよ)」

「(そんなプラスチック製の金なんか持っているはずないだろう)」

「(じゃー、私達を放棄するなら、ここまで来たタクシー代払って、一人往復百ドルでいいわ。全部で三百ドルよ)」

「(なに~! お前とシベリアは姉妹で同じタクシーだろう? 三百ドルなんてデタラメだ!)」

「(諸経費と罰金よ。交渉後のキャンセルだから)」

「(そんなバカな、お尻にも触れずに三百ドルとは酷いじゃないか)」古川記者は酔いがさめてしまった。

「古川さん、今夜はあきらめましょう」

「お尻にも触らないで罰金三百ドルですよ。なんとかしましょうよ」

「もう、これ以上無理です!」黒澤和尚と中嶋和尚が同時に言った。

少し落着きを取戻した『吉祥天』の様なバネッサが、顎に当てた人差し指を外して、両手を拝むように合わせ、

「(・・・。こうしましょう。モーテルがダメなら、私の家に行きましょう)」

交渉疲れで、泣き面だった古川記者が目を大きく開いて、

「(君の家?)」

「(私、一人暮らしだから、でも、絶対に近所に見られないようにしてね)」。

「(で、君はいいが、彼女等はどうする?)」

「(任せて、私が説得するから)」

バネッサはマルレニとシベリアを片隅に呼び寄せ、ヒソヒソ話を始めた。時々、「(今回だけ、お願い。一度くらいこんな事あっていいじゃない・・・、だから)」「(そうね。・・・)」真剣な会議が終わって、三人が横に整列した。

「(東洋のヤボ男! 今夜は私達が心行くまで楽しむの、覚悟してちょうだい!)」

「(えっ! なんだって?)」