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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(115)

ニッケイ新聞 2014年3月13日

状況がはっきり理解出来ない古川記者に、中嶋和尚が心配して、

「どうしたのですか?古川さん」

「中嶋さんのお経が原因で、俺達が彼女等にセックスサービスしなくては・・・、大丈夫だろうか・・・」

ポルトガル語が少し分かる黒澤和尚が、心配顔の古川記者に代わって、

「要するに、ただでー、出ましょうと言っているようです」

「なんですって! 私のお経の所為にしないでください。許せません!」

中嶋和尚の態度に、古川記者が慌てて、

「もう絶対にイヤとは言わせませんよ! 素直に彼女等の要望に応えましょう!これは日本男子として義務ですよ」厳しい口調で言った。

「(まだ、なにか足らないの?)」バネッサが心配そうに言った。

「(とんでもない!さっ行こう)」

絶体絶命の窮地に立った中嶋和尚は『地蔵』さんに救いを求めた。

第十九章 霊怪

五人乗りの車に六人が無理して乗り込んだ。前の座席に運転する古川記者と大きなマルレニが、残りの四人が後部座席に押し込まれた。

酔った古川記者運転の車は上下、左右、前後と揺れて、後部座席の四人は悲鳴を上げて、目的地に着く前に興奮してしまった。

中嶋和尚はやけくそになっていた。

バネッサの家は高級住宅地のど真ん中にあった。

着くと、マルレニが気を利かせて後ろドアーを開けると、いきよいよく中嶋和尚が車から弾け出た。続いて、興奮した顔のバネッサと、続いて黒澤和尚とシベリアがこびりついて降りた。

「シー ・・・」とバネッサはざわめきを静め、皆を裏口から家に誘導した。

「大きな家ですね」裏口から台所を通った。

古川記者が、

「(俺達、夕飯食ってないんだ)」

「(任せて、うんと精力つけてね)」と、バネッサが卵料理を手早く作った。

古川記者はビールも頂いた。

「(立派な家だな)」

「(装飾品に触らないでね。マルレニの組はこの部屋、シベリア達はこの部屋、ナカジマと私は二階よ。一時間後にここに集合、いいわね)」

彼女のドレスと居間の装飾品とのレベル差に違和感を抱いた古川記者が、

「(バネッサ、この家は君のもの?)」

「(実は私、ここの家政婦なの、家の主人は家族でアルゼンチンへ旅行に出かけていて、私が留守番しているの。だから、その間、私がここの主人よ)」

そう言って、バネッサは拒む中嶋和尚の手を引いて二階に上がった。

しばらくして、

「(ああー、ああー、・・・)」五百キロ余りの長距離を運転し、疲れているにもかかわらず、古川記者が献身的な努力でマルレニにスキャンダルな声を上げさせ、義務を果した。

黒澤和尚は古代インド教を混合して独自であみ出した密教の超能力忍術で、

「(あー、・・・)」と、一瞬にシベリアの望みを叶えた。

「(きゃ~、あ~、あ~)」二階からはバネッサの叫びが続いた。

「(ああ~、そこ~、あ~、たすけて~、あ~っ、また、ああ)」

約束の一時間後、一階の居間に満足顔のマルレニとヘトヘトで目の周りが黒ずんだ古川記者、大満足顔のシベリア、何も無かったような平素な顔の黒澤和尚と中嶋和尚、疲れた顔のバネッサが集合した。