ニッケイ新聞 2013年1月10日付け
サンパウロ州保安局が8日付官報に、強盗殺人や殺人未遂といった事件で負傷した人の救助に軍警が関わる事を禁じ、事件の被害者や証人は即座に市警に連れて行く事を定めた規約を掲載したと9日付伯字紙が報じた。この通達は、医療関係者に歓迎される一方、軍警内に物議をかもし出している。
警官は皆、救命処置などの訓練を受けているのに、殺人事件や警官との銃撃戦が生じたりした重大事件その他で重傷者が出た時の人命救助は、SAMUや消防の救急隊に任せよという命令発効は8日。軍警が現場に居合わせた時も、軍警車両による負傷者搬送は禁じられ、救急車の発動要請が義務付けられた他、被害者や証人は軍警基地に立ち寄る事なく、市警に連れて行くよう、指示されている。
保安局では、この処置は被害者の安全を保障するためと説明。軍警車両で搬送する場合、負傷者は最も近い病院に運ばれるが、その病院に必要な診療科がない時などに別の病院に転送する車両が手配できず手遅れになる可能性や、損傷箇所を適切に保護、固定せずに搬送して重篤な事態を招く可能性もあるからだ。
多少時間がかかっても、現場で適切な処置を施し、最善の処置ができる病院に運ぶ方が安全なのは確かだが、その裏には、病院への搬送中に負傷者を殺害したり、現場検証が済む前に証拠隠滅を図ったりするのを防ぐ意図もある。
例えば、12年5月28日夜、サンパウロ市東部で起きた州都第一コマンド(PCC)と軍警との抗争では、軍警車両でアイルトン・セナ道沿いのエコロジコ公園に連れて行かれたPCCメンバーが殺害される事件があった。
また、サンパウロ市北部で12年5月30日に起きた私服警官に対する強盗未遂で身柄を拘束された青年が、足を撃たれて警察車両で病院に行くと友人に連絡したが、病院に着いた時は死んでいた例や、フェラース・デ・ヴァスコンセロスで11年4月5日に起きた強盗事件で足を撃たれた容疑者を軍警が墓地で射殺、目撃者が警察に通報したのに、抵抗したから射殺したと報告した例もある。
保安局は、警官が容疑者を殺した時の死因を、従来の「抵抗したための死」との表現から「警官の介入による死」に変更。調書の死因欄は、職務執行妨害が本当にあったか、無抵抗の状態で殺されたかなどを調査した後、正式記入される。
軍警内からは、全員が犯罪に絡んでいるかの印象を与えると反発する声が出ており、軍警でもある州議が2月には通達撤回のための動議を提出するといきまいているが、負傷者の安全と透明性を重視した通達に安堵する声もあるのが現状だ。