ニッケイ新聞 2014年4月17日
サンパウロ市もすっかり秋空となり、朝方冷え込むようになった。そんな寒い朝など、辻々に寝ている路上生活者に毛布を掛け、温かい食べ物をさり気なく置いていく信心深そうなブラジル人女性の姿を時々見る。キリスト教的な恵まれない人への慈愛精神の表れだろう▼コラム子は日本で路上生活者は見ても、実は物乞いには会ったことがない。東京池袋の支援団体「てのはし」のサイトによれば、路上生活者の主な仕事は派遣や日雇い業、アルミ缶や読み捨てられた雑誌を拾って再生業者や露天商に売ることだという。飲食店の残り物や支援団体の炊き出しを頼る人もいるが、数は少ないとか。つまり路上生活者とはいえ大半が労働で生計を立てている▼「東方網日本語版」のサイトにあった日中の比較記事は、日本に物乞いがいない現象を「日本のホームレスは基本的に『貧困』問題の表れではなく、人生哲学と社会学に関係がある社会問題である」と分析し、「恥の文化」と関係があると書いている▼物乞いは日本人にとって耐え難い恥であり、自己の尊厳にも関わる問題だからか。「働かざるもの食うべからず」と大半が考える日本において、当地のように物乞いが〃職業〃として成り立つ可能性はほぼゼロだと思う▼「てのはし」には、日本では「生活困窮者を国が援助すべきではない」と回答する人が世界最高水準の38%に上るとあった。日本の勤勉さと富は、こうした厳しい価値観によって支えられている▼道行く人に釣銭を恵んでもらい、「ボン・フェリアード」(良い祝日を)などと声をかける当地の陽気な物乞いを見るにつけ、人生を謳歌しているのはどちらかと考えてしまう。(阿)