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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(58)

ニッケイ新聞 2013年12月7日

 測量班の年配の男が、
「(ミサ?! ここでやれないのか?)」
「(ミサと云っても『ブッダ』だぞ)」
「(『ブッダ』でもいい、やってもらいたい)」
「(先を急ぐんだ)」
 一番年寄りの男は考え込んで、
「(帰りにここを通るだろう)」
 最後に、炊事係が持ち出した地酒のピンガ(サトウキビから造った四十度前後の酒)で乾杯し、別れた。
 別れて直ぐに、測量班の説明通り道は分かれていた。右に折れると『Acara(アカラ)』、左に折れると『Tome-acu(トメアス)』と真新しい大きな標識があった。それを左に折、トメアスに向かった。
 それから二時間半、太陽を右側に密林を南下した。確かに道はあるのだが、油断すると迷ってしまう。徒歩で百メートル密林に迷い込むと脱出は不可能だそうだ。そんな話をしながら、それから一時間ほど走ると、道が良くなった。街道脇の大木が減り、二、三台の車とすれ違った。遠くに赤いカワラ屋根の集落が見えてきた。集落と思っていたのは近づくにつれ街の様相を呈してきた。道路も舗装に変わった。
「中嶋和尚、トメアスです! 大きな町になりましたね。私がいた頃の十倍以上、いや百倍ですね。(うわー、懐かしいなー)」西谷はこらえ切れず大声で叫んだ。最後の言葉がなぜかポルトガル語であった。
「(ニシ・タニサン、懐かしいですかそんなに)」アナジャス軍曹は西谷の喜び様を見て自分も喜んだ。
「ここは終点ではありません。第三トメアスはここから三十キロ奥です」
「(先を急げ! 時間からしてここで休むわけにはいかない)」
【(了解!)】
 そのまま、二台のジープは多くの人目を引きながら町の中心と教会前の公園を通り、左に折れた。細い道になったが舗装は続いていた。
「今の公園を反対側に曲がると第二トメアスの方向です」
 ジープはスピードを上げた。まだ、明るい時間帯だがヘッドライトを点けて走った。
 前を走っていた乗用車がスピードを落とし、道の右側ぎりぎりに寄せて、軍曹達の軍のジープが通り過ぎるのを待った。
 前から来たトラックも左側の土手に片輪を乗せて止り、軍のジープを優先させた。

 半時間後、赤道近くのつるべ;釣瓶お;落としで急に暗くなり始めた頃、前方に光が見えた。一つの光が三つになり、だんだん増えて数えきれなくなった。