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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(66)

ニッケイ新聞 2013年12月19日

「もう、大昔の話ですわ。ドブ掃除ではなく、養殖が難しく、非常に珍しい品種を町中の小川で見つけまして、それで、ドブに入ったと大袈裟に言われたわけです。・・・、そんな事もありましたね」
「新種もかなり発見したと聞いておりますが」
「アマゾンには品種が無限とあります。発見した新種は苦労させた妻や娘達の名にしました。勿論、美しいのは家内で、可愛いのは娘達の名にしました。アマゾンは無限で神もまだいない不思議なところです。それに、何度来ても新しい発見が・・・」


第八章 慰霊

 一時間後、遊佐ホテルの大きな元食堂に十五、六人の日本人達が集まっていた。
「皆さーん、えーと、お集まりいただき有難うございます。急にお集まりいただいたのは、ここにおられる西谷さんが中嶋和尚を連れて先没者の法要をしに、サンパウロから来られたからです。西谷さんを紹介します。西谷さんは第三トメアスに三十年前までおられた方で・・・」
「西谷と云えば、拓大の二人組みで、確か御守(みもり)君と一緒にトメアスに来た・・・、あの西谷君か・・・」
「彼が坊さん連れて、先没者の慰霊祭を!?」
「素晴らしいじゃないか、俺達も一緒に・・・、いつも気になっていたんだ」
「よし、やるとなれば・・・、日本人会館は狭くてダメだし、場所を決めなくては」急に騒がしくなった。
その騒ぎを抑えるように、西谷が立ち上がって、
「ちょっと待って下さい。・・・、今、紹介された西谷輝久です。私は、二十九年前、トゥクマン農園でジュートを栽培し、黒コショウの栽培も試みていました。そしてマラリアに倒れ、ベレンの町に運ばれ、そのままサンパウロへ出てってしまった者です。それで、あの頃、ここで亡くなった仲間の弔いをする為に戻って来ました。慰霊祭と云う大それた事まで考えていません」
「段取りさえ教えて下されば我々が準備します。是非、慰霊祭をここでやって下さい。お願いします」
「坊さんをわざわざ連れて来たんだ。こんなチャンスは二度とないぞ」
「中嶋さん、どうしましょう?」
「やりましょう。西谷さんが持ってきたロウソクや線香で充分まに合います。祭壇はこの壁を背にして、向への大きな両開きの扉を開ければ広い中庭まで参列者の場所が取れます。五、六十人は大丈夫と思います。如何でしょうか」
「墓参りが慰霊祭にまでなってすみません」
「いえ、こんな事になって幸せです。精一杯頑張ります!」中嶋和尚は、飛行機から見たあの壮大な大自然を相手しての慰霊祭に不安を抱きながらも闘志を燃やした。