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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年12月20日

 チリの大統領選挙が今回から全員投票でなくなって投票率が大きく下がり、落選した勢力からは「投票率が低いから国民の総意が反映されていない」との異論が出されたのを聞いて、考え込んだ。日本では国政選挙でも投票率4割前後が当たり前という印象があり、チリのように6割程度もあれば十分に高いと思っていたからだ▼着伯当初、「なぜ投票しないと罰則があるのか?」と不思議だった。軍政から民政に代わったばかりで「投票を通して国政に参加する」という民主主義に国民が慣れていないので、過渡的に罰則があるのかと思っていた▼ところが、広大な国土に住む国民の9割以上が毎回参加する様子を見ていて、「良くも悪くも国民の総意が正直に反映される投票制度であり、そこで選ばれた代議士の政党バランスは、正しく現在の国民意識を反映している」と思うようになった。当地では「投票しない」ことは「一つの意思表示」ではなく、義務からの逃避だ▼事実、下層階級に支えられた現与党は、全員投票だからこそ可能な政権のあり方だ。ところが日本では政治意識が強いしか投票しない。日本の政党バランスは投票した人の意思だけを反映している。「投票したくない人」の意思すらもが反映された政党バランスでないと〃国民の総意〃とは言い難いはずだ。だから民意とずれた政治家が出てきがちだ▼日本の国政を迷わせている一因は、投票しない人たちではないか。全員投票はむしろ日本に向いた制度だ。全員が投票するなら、今とはまったく違うタイプの政治家が生まれる気がする。全員投票が日本の膠着状態を変える切り札ではないか。(深)