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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(42)

ニッケイ新聞 2013年11月13日

「聞いた事がありますが、そのリンネについて説明していただけませんか」
「はい、『輪廻転生』と言って、これは古代インドから受継がれ、仏教にとって根本的な考えです。ヒンドゥー教も『霊魂再来説』として受け継がれています。それは、六道で生を繰り返しながら修行し、理想の境地である涅槃に至り、極楽に達する事で、それを『極楽浄土』と云います。イスラム教では少し輪廻の解釈が違って『死とは次の世に移る扉である』と教えています」
「だから、回教徒は死を怖れないのかな」
「イスラムは宗派でだいぶ解釈が違いますから、そう言切れません」
「仏教は死とは極楽を目指すのですね」
「生きてるうちに正しい行いをすればの事です。そして、仏様たちを信じれば必ず六道から解脱して極楽へ行けます」
「六道とは『修羅道』『畜生道』それに『餓鬼道』と、それから?」
「私達の今の世界の『人間道』、それに、『天道』と云うまだ極楽に到達していない修行中の菩薩さま達の世界と、『地獄道』を合わせて全部で六道になります」
「『修羅道』とは?」
「戦いに暮れる世界です。『畜生道』は動物の世界、それに『餓鬼道』は飢えと渇きに支配された世界、『地獄道』はお分かりですね」
「このロビーには、輪廻によって『畜生道』や『餓鬼道』が待っている方がいるわけですね。ここは政治の中心地で、欲が渦巻いていますから当然かも」
「ですが、仏さまはこの方達を見捨てません。仏さまのスケールで見ますと、ほんの一瞬の姿ですから、この人達を救う色々な仏さまが現れます」
「まだ色々な仏さまがおられるのですか?」
「先に言った仏さま達は勿論、何百、何千の仏さまが救いに来てくれます。『釈迦如来』さまを筆頭に、如来さま達の世界の中心にいる奈良の大仏で有名な『毘盧舎那(びるしゃな)如来』さま、そしてその別名で、密教では仏のなかの王様と云われる『大日如来』さま、人をあの世の浄土に導く『阿弥陀如来』さま、万病を治し、この世の安堵を約束する名医『薬師如来』さま、すべてを映し出す眼力を持った『阿?(あしゅく)如来』さま、平等に見る智を持つ『宝生如来』さま、救う方法を知る『不空(ふくう)成就如来』さまと、最上級の『如来』さまだけでもたくさんおられます。考えて下さい、この仏さま達がそれぞれ役割を分担してチームを組んで当たればどんな悪癖、悪弊をも阻止し、平和な世界にしてくれます。それに続き、文殊の智慧で有名な『文殊菩薩』さま、慈悲を司る『普賢(ふげん)菩薩』さま、如来候補の『弥勒菩薩』さま、その『弥勒菩薩』さまが『如来』となって現れるまでの無仏時代の総責任者である『地蔵菩薩』さま、記録係りの『虚空蔵菩薩』さま、『薬師如来』さまに仕える『日光菩薩』さまと『月(がっこう)光菩薩』さま…」