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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(43)

ニッケイ新聞 2013年11月14日

「…『阿弥陀如来』さまの脇侍(きょうじ)の『勢至(せいし)菩薩』さま、究極の菩薩と云われる『観世音菩薩』さま、『釈迦如来』さまの脇侍として従い、薬草と薬壺(やっこ)をもった兄弟菩薩の『薬王(やくおう)と薬上(やくじょう)菩薩』さまの菩薩さま達、更に『観世音菩薩』さまの化身で、あらゆる願事を聞いてくれる『如意輪(にょいりん)観音』さま、観音さまの王と云われる『千手観音』さま、十一面で全ての方角の人達を救う花形観音の『十一面観音』さま、民衆に密着した『浅草の・・・観音』さまなど限りがありません。これ等の『観世音菩薩』さまの変身それぞれが、前に云った『餓鬼道』等の『六道』を受持ってお救いなされます」
「『地獄』の人達までお救いなされるのですか?」
「はい、弁護士役の『菩薩』さま達によって救われます。地獄に落ちる人や落ちた人でも教えを信じれば弁護してくれます。その弁護士の代表が『地蔵菩薩』さまで、危なっかしい祖先を助ける為に、お供え物をして弁護を願うと効果絶大です。その下に刑事や検事の様な、私が大好きな『仁王』に代表される『明王』や『天部(てんぶ)』達がいます」
「そんなに多くの仏さまが加われば鬼に金棒ですね」
「ああ、その『鬼』で思い出しました。赤鬼、青鬼を従えた冥界の支配者『閻魔大王』、子供を食らう鬼女から改心して子供の守り神となった『鬼子母神(きしもじん)』と続きます」
「中嶋和尚が説明すると、仏さまの世界が面白い様に分かりますよ」
「幼児の私に、祖父が仏様の色々な物語を面白く話してくれましてね」中嶋和尚は祖父を懐かしく思い出していた。
「中嶋和尚は仏さま達の楽しい世界が頭の中に築かれ、それで、次から次に湧き出てくるのですね」
「仏さまの話するのは楽しくて楽しくてたまりません」
「『閻魔大王』は地獄の神さんですよね。仏の世界と違うのでは?」
「この世を『俗界』、『閻魔大王』が司る魂や霊の世界を『冥界』、そして、仏さまの世界を『仏界』と三つに祖父が分けていました。その中の『仏界』を解かり易く図にした物に『曼荼羅』と云うものが有ります。ほとんどのお寺にあります」
「マンダラ、聞いた事ありますよ」
中嶋和尚は楽しそうに話を続けた。
「『曼荼羅』は仏さま達を一つの図に配したもので、それを見ると、仏さまの世界が一目で分かります。曼荼羅には主に二つあって、いま紹介してきた仏さま達が、仏界のどの位置におられるかを表す『胎蔵曼荼羅』と、この世から見た仏さまの役割を表す『金剛界曼荼羅』があります」
「仏さまを知る手段が色々あるのですね。中嶋和尚の宗派は?」
「私はありません。と言いたいです」