ニッケイ新聞 2013年11月23日
ブラジルを代表する知識人の一人であるマリオ・デ・アンドラーデの伝記が存在しないのは、マリオが同性愛者であった可能性が高く、親族がそれについて触れたがらないことが理由だとの憶測が、研究者の間で広がっている。
北東部セアラ州のフォルタレーザで先週行われた文学のイベントでは、ジャーナリストで伝記作家のウンベルト・ウェルネック、リラ・ネット両氏がこの話題に触れた。
「彼は20世紀のブラジル文化における最も重要な人物。ずっと彼に関する本を書きたかったが、それができなかったのは彼がゲイであったことと、彼に関する記憶、すなわち資料には所有者がいることが理由」とウェルネック氏は話す。
マリオの伝記を執筆中のジェイソン・テルシオ氏は、マリオが同性愛者であった可能性について作品中で触れるものの、強調はしないという。
「マリオの作品の中には彼が同性愛者であったことを連想させる記述があると言う人もいるが、彼のこの側面はそこまで重要ではない」という考え方だ。
さらに、「現時点での僕の結論は、マリオは全性愛者(パンセクシュアル)であったんじゃないかということ。かつてマリオは、作家のロザリオ・フスコに対し、木とも性的関係を持てるんじゃないかと言っていたようだから」と付け加える。
ところが、この憶測に異論を唱える人もいる。サンパウロ大学ブラジル学研究所(IEB)のテレ・アンコラ・ロペス教授だ。「マリオの伝記出版を彼の親族が拒むのが、彼が同性愛者だったことが理由であるはずがない。親族はそんな馬鹿ではないし、そういうことを言う人の偏見の現われ」と仮説を一蹴する。
同教授に言わせれば、マリオの生涯については既に色々な記事が出ており学校の授業でも教えられるが、伝記の出版そのものには反対していないという。「テルシオのことは知っている。彼はいい仕事をすると思う」と肯定的だ。
テルシオ氏はこの伝記執筆を7年前から構想し、執筆を開始してから3年になる。来年前半には完成させたい意向だ。
マリオの親族を訪ね、伝記の重要性を説明した。「もし既に彼の伝記が存在していたとしても、別の作品があってもいい。それほど彼の人生や作品には大きな意義がある」と信念は強い。
最高裁と議会は「個人の名誉を毀損する可能性がある場合や商用目的の場合に、事前了承を取る必要がある」と定める民法20条を改正しようとしている。10月から下院での審議が始まっており、21日には最高裁で、本人や遺族の了承を得ていない伝記出版の問題に関する公聴会も行われた。
テルシオ氏は、もし法的な問題で作品が出版できないとなれば、〃作戦B〃を考えているという。それは「外国で出版して、国際ペンクラブやインデックス・オン・センサーシップなどの国際団体に訴える」というもので、あくまで表現の自由を求め続ける姿勢をあらわにした。(つづく)