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連載小説=日本の水が飲みたい=広橋勝造=(119)

ニッケイ新聞 2014年3月19日

「古川さん、ご苦労でした。彼女の情報が充分取れましたね」

「・・・」

「古川さん、霊気をがっちりキャッチして、よくここまで・・・。大成功でした。それも成仏前の霊気をがっちりと・・・」

「霊気なんかじゃなくて『聖正堂阿弥陀尼院』さんそのものでしたよ」

「黒澤和尚も、密教でここまで鮮明に霊気を捉えられるとは・・・」

「中嶋和尚の助けがあったからです。それに、媒介となった古川さんがこんな繊細な受感性を持っておられたとは驚きでした」

「古川記者の取材魂が有ったからでしょう」

「ロス疑惑は、未だ、冥界でモメてるようでした」

「黒澤和尚、ローランジアに来て感じるのですが、なんと説明していいのか・・・、この町はアマゾンとは逆に霊界が目の前に広がっている様な・・・」

「アマゾンはどんな感じだったですか?」

「全くこことは正反対で、一言で云うと、何もかも吸い取ってしまうブラックホールみたいな自然が・・・、人の手に侵されていない未知の世界がはばかり掴みようのない超自然の世界で、神様や仏様をも必要としないような・・・、言葉では説明出来ません」

「アマゾンは広大な自然に包まれた謎の世界ですからね」

「トメアスと云う町で日本人移民の先駆者の慰霊祭をしたのですが、私の念力は通用せず、吸収されるばかりで・・・、何の役にも立ちませんでした。それで、断念して、現地の日本人の提案で『君が代』を合唱し、少し集まった霊に『故郷』の歌をリクエストされて、やっと全先駆者の霊を集める事が出来ました。その後、『赤とんぼ』のリクエストまであり、それからお経をあげたのです。それでやっと、半数の方が成仏されました」

「『故郷』の歌は、賛美歌みたいなところがありますからね」

「それに比べ、このローランジアは霊や魂が容易に宿る霊府の様です」

『聖正堂阿弥陀尼院』との対話を取材ノートに整理していた古川記者が、

「田口聖子、戒名『聖正堂阿弥陀尼院』さんも、ローランジアはこの世との交通が容易だと言っていましたが。私もここでは鳥肌がたつようなものを感じます。それは、ここから五百キロ離れた所に発電量で世界一のイタイプー水力発電所があるからではないでしょうか?」

「?・・・、五百キロも離れているのでしょう。それに、もっと発電所に近い所の方が感じるのではないですか? どうして、ローランジアに限って・・・」

「昔、イタイプー発電所を取材した時よりも、ローランジアの方が妙に磁気や磁場の様なものを感じ、鈍感な俺が敏感な男になった様な・・・」

「何かを感じるのは私だけではないのですね。ですが、これは磁気ではなく、霊気ですね」

「これが霊気ですか。私にコウレイが出来たのですからね」

「世界一の発電所が霊気に影響とは、古川記者は面白い発想をされますね」

「いつも、突飛過ぎて、鈴山編集長からねつ造記事だと言われ、掲載を拒否されます。今回の田口さんとのコウレイ体験記なんて絶対ダメですね」

黒澤和尚はラップトップを引き寄せ、日本の立花和尚に森口のもっと詳しい情報を求めるメールを送った。直ぐにその返信が来た。

〔黒澤光明和尚殿、ご要望の件〕

『元教団の事務所で森口氏は管理していた元教団の資金を奪って逃げたようです。その他、うわさですが、女性に屈辱的な行為をしたようです。その被害者が亡くなった事で起訴されなかったようです』