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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2013年9月6日

 8月28日はブラジル柔道史に残る一日になった。リオの世界選手権でラファエラ・シウヴァ選手(21)がブラジル女性柔道家初の金メダルを獲得したからだ。57キロ以下級の決勝戦で米国のマルチ・マロイ選手から見事一本をとった。1日のエスタード紙特集頁の「世界王者が打ち勝った本当の敵は、貧困と自らの反抗的性格だった」との見出しの記事には実に考えさせられた▼彼女の出身は麻薬殺人事件の多さで有名な、同名の映画にもなったリオの貧民窟「シダージ・デ・デウス」だ。「この町に育った子供は早くから〃世界は不公平で残酷だ〃と理解する」と同記者は評す。圧倒的な貧困と、麻薬密売人と警察との撃ち合いによる雨のような銃弾と死——そんな日常を過ごす子供にとって、最大の夢は「ファベーラを出ること」だと記事にある▼そこですら彼女の反抗的な性格は手に余るもので、「格闘技でもやらせたら」とNGO団体に預けられたのが5歳の時。最初の柔道教師ジェラルド・ベルナルデスは「彼女は無規律で、とにかく喧嘩っ早かった」とある。彼女の将来に眩い星が輝いているとは、誰も想像していなかった頃だ▼2年前の世界大会では決勝戦で日本人選手に惜敗して銀メダルだった。その時、「メス猿め! お前の居る場所は折の中で、畳の上じゃない」とまでどこかで中傷された。今回優勝した後、彼女は「肌の色や金と関係なく、誰でも自分の闘志次第で勝利はつかめる」と宣言し、両腕を高く掲げた▼世界で最も不公平な町の一つで育った子供が、柔道によって精神と身体を鍛えて世界一を達成したことは、国籍を超えたJudoという〃道〃の勝利でもある。(深)