ニッケイ新聞 2013年8月2日
外食産業が厳しい状況にある。レストランの値上げを前に、消費者は外出せずに家で食事をしたり、安い店を探したりして出費を抑えるようになった。その一方、レストラン店主たちは、インフレでコストが高騰し、集客数も減って採算が取れない状況に苦労を強いられている。
日本食レストラン「Miya」の豚の味噌焼きが、原価11・5レアルで46レアル(2千円余)、イタリアンレストラン「Piselli」のえんどう豆のリゾットが76レアル(約3300円)もするのも、ドル高の中で輸入米を使っている現状を考えると、やむをえないのかもしれない。
これだけの値段を取っても、大半が材料費、家賃や光熱費、税金などに消え、利益として残るのは1割程度。人件費、安全対策費もある。「もしインフレ率をそのままメニューの価格に反映すれば、本当はもっと高くなる」。そんな店主たちの声が聞こえてきそうだ。
消費者と事業者双方から不満を訴える声が聞こえる中、レストラン業界では、何かを変えなければ立ち行かなくなる限界に来たという危機感が募っている。「レストランは営業を止めてはいけない。何とかしないと。何とかできない店は閉店するだけ」。全国レストラン協会のクリスチアーノ・メレス会長は、そう決意を新たにする。
「人々はまだまだ外食している。ただし、財布の紐をきっちり締めてね」。こう分析するのはコンサルタント会社「Gouvea de Souza」のアナリスト、イングリッジ・デヴィザッテさんだ。同社が行った調査によると、週末にレストランで支出する額の平均は、2010年に53・8レアル(約2400円)だったものが、39レアル(約1700円)にまで減っている。
「この危機は一過性のものではない。厨房のシステム化などで、料理の価格があまり高騰しないような工夫が必要」(メレス会長)。アメリカ、ヨーロッパスタイルのサービスへの方向転換を考える店主も少なくなく、ウエイターなどのホールスタッフの数を減らす傾向がみられるという。
「Piselli」のイタリア人シェフ、モレーノ・コロジモさんは、「ミシュランガイドで星が付いた欧州のレストランで働いたことがあるけど、そこではホールでもキッチンでもここの4分の1の人しか働いていなかった」と自身の経験を振り返る。
「価格を保つのは難しい。経営のためにマージンを犠牲にしているレストランは多い」。サンパウロ・バールレストラン協会のジョアキン・サライバ会長はこう説明する。同協会が306会員を対象に調査したところ、かつては15〜20%だったマージンは、現在では10%近くに減った。
不振にあえぎ始めた業界でも、客足を落としていないレストランもある。Egeuグループのパウロ・クレス氏は、「我々の主力店が提供する料理は高額だが、庶民にも比較的手が届きやすい価格のグループ店では客が途絶えたことがない」と断言する。同グループでは値段を下げたりする代わりに、ワインのサービスをしたり、自社を継続的に利用してくれる優良顧客を優遇するなどの方法で、新しい顧客まで獲得できるような工夫をしているという。
レストラン経営の指南書を執筆しているロベルト・ブラガ氏は、「無駄を省いたりして経営を最適化する代わりに、料理の値段を上げることだけで利益を保とうとする事業者たちがいる」と指摘している。物価高騰を前に、外食産業では今後、各店で生き残りをかけた戦いが迫られることになりそうだ。(1日付エスタード紙より)