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外国人医師招聘問題=地方に定着しないブラジル人医師=「高給の支払いは義務」

ニッケイ新聞 2013年7月6日

 中西部マット・グロッソ州の州都クイアバから1100キロ、人口2千人のノーヴァ・サント・アントニオ市には、医者が1人しかいない。
 33歳の女医、カリニー・ゴンサルべスさんは、この町唯一の医師として働き始めて半月。給与はなんと月3万レアル(132万円)だ。
 「アスファルトも、上下水道もない。お金を下ろしに行くのにも、車で4時間かかる」。カリニーさんの夫エレアンドロさんは、こう町の状況を説明する。
 診療所のインフラは決してよくなかったが、「今はだんだんよくなってきている。でも、市長は診療所に何が必要かわかっていない。薬を頼んだら、到着するのは次の週」とカリニーさん。
 週40時間とその他の勤務で3万レアルという金額は、税金などを差し引いても、連邦政府が掲げる外国人医師招聘プロジェクトで予定されている給与額の倍以上残る。
それでも減額されたという。
 このような条件で、医師の定着率は高いはずはない。「(来てもらうまでは)大変だった」と明かすロウリヴァン・サントス同市保健局長は、3万レアルという給与に関して「それくらい払わないと医者は来ない。でも、その金額の給料は市の財政を直撃する」と明かす。
 連邦政府は現在、医師不足が著しい地域の医療を充実させるべく、国内の医師の募集と共に、外国人医師も招聘する事業を計画している。外国人医師招聘の目標数は一万人。給与は月1万レアル(約44万円)、各種補助金も支払うという。
 しかし—。インフラが脆弱で、街から遠く離れた地方に医師を呼ぶというのは、単に給与を上げるだけでは不十分、というのが関係者の見解だ。
 北東部リオ・グランデ・ド・ノルテ州の州都ナタルから400キロのジョゼ・ダ・ペーニャ市のマリア・ネウマン・アゼヴェド保健局長は、「外国人だったら定着するだろうけど、ブラジル人はしない」と言い切る。同市では9千レアル(39万6千円)の給料で、2人の医師を募集している。
 連邦政府は、文化や言語的に近く、かつ不況に喘ぐスペインやポルトガルから優先的に医師を招聘する方針だ。スペインの失業率27%はユーロ圏でワースト1。中でも医師は61%と著しい。
 彼らを自国に招聘することは、ブラジルではなく他の国の政府も考えているようだ。英国やドイツの他に中東カタール、同じ南米のチリも、同様の受け入れ政策を発表している。その中でも、ブラジルは比較的敷居が低く、良い給料や待遇を用意しているようだ。
 ブラジルではこの政策に関して賛否両論だ。世論調査では国民の間で意見が二分、国内の医師はこの政策に反発し、各地でデモを起こしている。
 ドイツで働く予定のポルトガル人医師のマリア・コウトさんは、「同じポルトガル語を話す国でも、ブラジルの孤立した田舎で働くリスクを取るかどうかわからない」と話している。(5日付フォーリャ・デ・サンパウロ紙より)