ニッケイ新聞 2013年7月6日
ブラジル高等裁判所が、バチカンの最高裁判所(正式名称は使徒座署名院最高裁判所)の判決を国内で適用し、子供が3人いる夫婦に関する〃婚姻の無効〃を認めたと5日付エスタード紙が報じた。
対象となった夫婦は、婚姻から8年間経って子供も3人生まれた後に、妻が3人の子供達と児童性愛に当たる行為を繰り返していると知った夫が離婚を申請。男性自身は犯罪に関与してなかった事が実証され、離婚が成立。男性が子供の親権や養育権を獲得し、女性には子供に会う事も禁じられていた。
だが、真の意味で子供を守るためには、自分や子供に関する公的記録から女性の履歴を抹消すべきと考えた男性が、カトリック教会に〃婚姻の無効〃を認めるよう訴えた。ブラジルの教会内裁判所とバチカンの最高裁が男性の言い分を認めたため、ブラジル高等裁も、バチカンとの間で2010年に成立した相手国の判決に従うという原則と、ブラジルの法律や利益に反してはいないという判断で、婚姻の無効を認めた。
バチカンの判決を基にした婚姻の無効判決は初めてで、男性は、カトリック信徒として新しい人生を築き直す事を望んでいるという。
〃婚姻の無効〃は、信徒の婚姻関係は神の前で結ぶもので、それを解く事を意味する離婚は認めないと教えているカトリック教会が、特別な場合に限って認めるもの。離婚は「結婚が成立した上でその関係を解消するもの」だが、婚姻の無効は「結婚成立の時点へさかのぼってその是非を問うもの」とされる。
カトリック教会が婚姻の無効を認めるのは、どちらかに職業や国籍なども含む素性の偽りがあった場合や脅迫行為があった場合、精神的な問題を抱えていたり共同生活が不能なケースなどに限られるが、婚姻の無効を申し立てるまでの期間は限定されていない。
ブラジルの民法では、素性を偽っていた場合や強要された場合、結婚以前から別の相手と性関係を持っていた場合等は婚姻の無効化が認められるが、申し立ては婚姻から3年以内に限られる。
婚姻の無効が認められた場合は婚姻関係そのものが成立していなかったと判断されるため、双方が未婚者とみなされ、結婚も自由に行う事が出来る。また、非がないと判断された側は、共同で獲得した財産以外の財産の所有権を主張でき、生活費などの支払い義務も負う必要がない。共同取得の財産は、離婚と同様、分配する事になる。
高等裁の判決は5月21日に下り、翌日の連邦官報に掲載されたが、裁判所報道官が明らかにしたのは1カ月以上経てから。この判例は登記所での結婚と教会での結婚の双方に適用される。離婚と婚姻の無効は大差ないとする人もいるが、今後は同様の要請が増えると見る専門家も出ている。