ニッケイ新聞 2013年7月12日
米国家安全保障局(NSA)による個人情報収集プログラムはブラジルも対象としており、特別収集サービス(SCS)の拠点がブラジリアにあったという報道はブラジル政府を慌てさせたが、10日付エスタード紙によれば、アルゼンチン、コロンビア、エクアドル、メキシコ、ベネズエラ、コスタリカ、ニカラグア、パナマ、ホンジュラス、パラグアイ、ペルー、エルサルバドル、チリでも情報収集が行われていた。
グローボ紙などの報道で米国への不信感を強めたラ米首脳は、12日の南米共同市場(メルコスル)会議で対応を協議する。ジウマ大統領は同件を国際電気通信連合(ITU)や国連本会議、同人権委員会に持ち込む意向を8日に表明済みだ。
一方、国連は9日、一般市民の通信内容を一方的に盗聴したりする行為は違法とし、最新の通信技術からプライバシーと表現の自由を守るための基準制定に積極的な姿勢を示した。ラ米首脳や閣僚は9月の国連本会議で「諜報活動は全市民の人権侵害だ」と訴える構えだが、11日付エスタード紙などによれば、国際社会での諜報活動は周知の事実とされており、ブラジルは国連で通信分野の安全保障に関して討論するよう呼びかける意向だ。
アモリン国防相は10日の上院で、ブラジルで使われている安全保障プログラムや通信衛星は他国のもので自国衛星やプログラムを持つ国より脆弱というが、通信技術の粋を極める米国さえ同分野で真珠湾攻撃的な打撃を被る可能性は残っている。
NSAは、米国内の各国大使館がやり取りする電話やメール、国際会議参加者の携帯通話やメッセージ(SMS)記録なども把握しており、米国が関心を持つ個人や企業は国内外を問わず、電話やSMS、フェイスブックなどの発着信先、日時などを継続的に監視されていた。ブラジルの通信会社はNSAにデータを流した事実はないというが、グーグルやフェイスブックなどの米国企業運営のプログラムや米国企業管理の光ケーブルを介す情報はまるで無防備だ。米国は10日、ブラジルに技術者を派遣して釈明する意向を伝えてきている。
パトリオッタブラジル外相はスノーデン氏の亡命に関し消極的拒否である沈黙を守っていたが、9日に受入れ拒否を発表。上院で同氏を受入れて米国の諜報活動の実態を証言させるべきとの声も出た事などで、10月23日のジウマ大統領訪米前に伯米の関係悪化を招くのを恐れたようだ。
同氏は米国外交機密文書暴露で知られる「ウィキリークス」のジュリアン・アサンジ氏同様、エクアドル領内への亡命を望んだが、米副大統領が同国に亡命申請拒否を要請、可能性が遠のいた。現在はベネズエラとニカラグア、ボリビアが受入れを表明済みで、同氏からの資料を公開したガーディアン紙記者はベネズエラへの亡命の可能性が最も強いと語っている。