ニッケイ新聞 2013年7月19日
【既報関連】日本政府が2009年に実施した帰国支援事業を利用して帰国したジュリアネ・フテンマさんが、再入国を拒否されたことを不当として日本を提訴した問題について、静岡県浜松市に所在する在日日系人団体「マイノリティー・ユース・ジャパン(MYJ)」が日本語アンケートをネット上で行った。今月11日に公表された中間報告によれば、回答者の約9割が彼女の訴えに否定的な見方を示していることが分かった。
回答者の大半は日本人と思われ、6月5日から7月4日までの1カ月間に寄せられたもの。「ジュリアネさんの訴えは当然だと思うか」の問いには、130人中116人が、「当然ではない」と回答している。
中には「日本にたかるな」「寄生虫外国人」「犯罪者」といった感情的かつ辛辣な言葉まで、アンケートの自由記述欄には記されている。「日本の税金を使っておいて」といった糾弾的言葉も目立った。
これを受け、MYJはサイト上で、ジュリアネさんは日本滞在中納税義務を果たしており、未納者への入国許可については望んでいないこと、在日ブラジル人のうち、定着居住者(永住者、永住者の配偶者等及び特別永住者)の犯罪率の高さを示す具体的なデータがないことを説明する意見を発表している。
MYJの活動に協力する浜松学院大学の津村公博教授は、本紙からの質問に対し今回のアンケート実施の意図を、「『どうせデカセギの子どもだから』という諦念によって、なかなか自分たちから声を上げようとしない在日デカセギ子弟世代からの声を拾いたいと思った」と説明する。しかし「結果として一部の層のゼノフォビア(外国人嫌悪)が顕著に現れたものになってしまった」という経緯のようだ。
「在日ブラジル人一世」を自認する武蔵大学社会学部メディア社会学科のアンジェロ・イシ教授にもメールで問い合わせると、「恐らく回答者のほとんどは浜松市の在住者ではないか」と前置きした上で、「この地域の特性が色濃く出ている」との可能性を指摘した。アンジェロさんの指摘する〃特性〃とは、「悪いニュースの主人公としてブラジル人が目立っている」「法の壁と闘うブラジル人が目立っている」の2点だ。
イシ教授は、特に前者について同市を「日本のブラジル人集住都市の中でも、最もブラジル人と日本人との軋轢がマスメディアによる報道のネタとして乱用されてきた地域」と指摘した。とりわけ2005年にあった藤本パトリシア被告によるひき逃げ、国外逃亡事件などに関する一連の過熱報道によるダメージは計り知れないと解説し、「排外主義的な思想を持つ一部の人々からすれば目障りな存在に見えるのでは」とも話した。
在日ブラジル人も「嫌韓」「嫌中」などの日本人による外国人嫌悪の風潮と無縁でないことが示された。戦後、日系人がブラジル社会で信頼を勝ち取ってきた経験は日本国内では活かせないのか—との重い問いかけが投げかけられたアンケートとなったようだ。