3月に小説『バトル・ロワイアル』(高見広春著)がポ語に翻訳され、グローボ・リブロス出版より発売された。同作は日本で99年に出版され、「中学生たちが、殺し合いをする」という衝撃的な内容で議論が巻き起こった作品で、2000年に深作欣二監督により映画化もされ、興行収入が30億円を超える大ヒットとなった。ポ語翻訳を担当したジェフェルソン・ジョゼ・テイシェイラさん(55)に話題の新作や、最近の翻訳事情について聞いてみた。
三島由紀夫や川端康成などの古典を中心に翻訳出版されてきたが、近年は村上春樹など現代文学が出始めてきた。そこへ今回、「42人の中学3年生たちが国家政策の一貫で殺し合いをする」という衝撃の内容で物議を醸し出した作品『バトル・ロワイアル』が翻訳刊行された。
翻訳者のテイシェイラさんは「米国人作家のスーザン・コリンズが書いた『ハンガー・ゲーム』が話題になって映画化された。その作品は『バトル・ロワイアル』の真似などと批評され、映画監督のクエンティン・タランティーノがすばらしいと評価したことなどから注目を浴びていた。当地では漫画が翻訳されており、映画化された作品のファンがいることから小説の翻訳化が決まったようだ」という。
暴力的描写が当地でどう受け止められるかと聞くと「過激な描写もあるが、作品自体はよくできている。42人の学生の細かな性格が描かれており、漫画が好きな人はもちろん一般のブラジル人も興味をもてるのでは」と期待をこめる。
ジェフェルソンさんは非日系のカリオカ。フルミネンセ連邦大学日本語学科で日本語を学び、その後国費留学生として千葉大学と東京大学で博士課程まで修了し、通算11年間日本で生活をした経歴の持ち主だ。元銀行マンだが05年に脱サラし翻訳専業になった。
これまで谷崎潤一郎『痴人の愛』、三島由紀夫『禁色』、夏目漱石『我が輩は猫である』、井伏鱒二『黒い雨』などの古典から、村上春樹『ノルウェイの森』、金原ひとみ『蛇とピアス』などの話題作まで多彩な文学を日本語から直接ポ語訳をしている。
日本文学の注目度の高さについて「普通、すでに英語に訳されたものを担当者が読んで、ポ語翻訳化しようと計画が立てられる。だから、西洋言語に訳されていない面白い作品があるのに限定されてしまう」と物足りなさを感じている。「本自体が高価で手にするのは限られた社会階層の人。今後経済成長し、本がより安価になれば日本文学ももっと売れるだろうし、いろいろ翻訳もできる」と確信する。
今後どんな作品を翻訳したいかとたずねると、「川上弘美、小川洋子、桐野夏生や、当地ではまだ知られていない有吉佐和子など女性作家の作品をもっと手がけてみたい」とうずうずしている様子だった。