ニッケイ新聞 2013年4月5日
「彼はこの仕事初めてなので、イジメないでくださいね」。県連ふるさと巡りを実施する某旅行社のベテラン社員が出発直前、4号車の添乗員となった31歳の自信なさげな新人社員を指差してそう言ったのを聞き、一行に不安がよぎった▼2日目の晩、イタジャイー日伯協会との交流会は夜6時半の予定だったが、一行がホテルに到着して荷物を下ろしたのは、もう7時だった。一部参加者は「荷物だけ下ろしてロビーに7時半に再集合」と申し合わせたが、集まったのは半分…▼ある参加者は「すぐに降りるように声を掛けましょう」と自主的に客室を回り始めたが、すぐに「あの部屋の人は『添乗員から8時でいいって言われた』っていうのよ」と怒り心頭の様子で降りてきた。その矛先はついに本人に向かい、「添乗員の仕事はそんな甘いもんじゃない! 遅れたら現地文協の婦人部が困るでしょう。その時間に合わせて朝から料理しているかも。ホテルに寄らず、まっすぐ会館に行ったら良かった。そういう判断をするのが添乗員の役目でしょう」と説教を始めた▼添乗員は再集合した参加者に素直に謝った。彼は翌日から次の行動を先回りして連絡するようになり、下手くそな日本語で冗談まで言うようになった。聞けば、彼は10年間も三重県伊賀市でデカセギし、08年の金融危機で失業して帰伯したばかり。旅行社で働き始めたのが一カ月前とか▼最終日に東洋街に帰着する直前、彼はマイクを握り、軽妙な調子で「みなさんからイジメられて勉強になりました」と語って一行の爆笑を誘い、大きな拍手を受けた。大量帰伯者の一人がコロニアの洗礼を受け、一皮むけた瞬間だった。(深)