ニッケイ新聞 2013年4月30日
2011年後半から景気が減速化して国内総生産(GDP)の伸びが振るわず、国内産業振興のために減税その他の政策を採ってきたブラジルだが、米国や日本、欧州連合(EU)が、ブラジルの保護主義は国際法の許容範囲を超えるとして世界貿易機関(WTO)に訴える意向と29日付エスタード紙が報じた。28日付同紙では、ブラジル産業の生き残り策として、パラグアイ進出が注目されているとも報じている。
1997〜99年(カルドーゾ政権)の中銀総裁、グスターヴォ・フランコ氏が、ブラジルの工業政策は1960年代の旧態に戻り、雇用はあっても生産性が低いと指摘したのは28日付エスタード紙。ここ10年は保護主義が激しくなったとの言葉は、翌29日付同紙の米・日・EUがWTOに釈明を求める形で提訴との記事にも直結した。
11年後半から景気の減速化が表面化し、経済基本金利(Selic)引き下げや減税処置などを相次いで導入したブラジルだが、暫定処置だったはずの車などへの工業製品税(IPI)引き下げが4月に延長された事などが先進諸国を刺激した。米・日・EUが、ジウマ政権のあり方は国際法の許容範囲を逸脱していると批判の声を強め、WTOに訴える姿勢を示しているのは、国内産業への保護主義政策恒久化などが疑われるからだ。
ブラジル工業界の国際的な競争力の低下が輸出の減退その他で表面化した事への対抗処置の一つは、国内産部品を一定量以上使っている事などを条件とした減税処置だ。電力料金の値下げ前倒しも火力発電使用やその後の調整で効果薄。IPI減税延長は国内消費の拡大も狙った苦肉の策だ。
だが、それは行き過ぎた保護主義政策との批判を生んだ原因のごく一部だ。ブラジルは、米・日・EUの企業は国内に生産拠点を持っているから経済政策の恩恵も受けていると説明するが、それだけでは納得できない3カ国・地域の開放圧力は今後も続きそうだ。
一方、税金や人件費の高さに泣くブラジル企業の生き残り策の一つは、パラグアイへの生産拠点移動だ。国境に近いシウダ・デル・エステなどに生産拠点を移した企業は既に30社に上り、アジア産の原材料を人件費の安いパ国で製品化し、ブラジルや欧州に輸出するという構想は、サンパウロ州工業連盟(Fiesp)のセミナーでも紹介された。
実際にパ国で生産しているのは自動車部品や衣類、靴、プラスチックなどで、ジーンズのズボンは国内より35%安くなるなどの具体例も、一部の保守的な企業からは不評を買い、気まずい雰囲気も流れたという。
だが、人件費の高さや重税、官僚主義、効率の悪さなどに起因する生産性の低さがブラジル工業の孤立化を招く恐れがある事は、元駐米大使でFiesp貿易問題高等審議会議長のルーベンス・バルボーザ氏も指摘するところで、熟練労働者の不足なども含め、中長期の改善策が待たれている。