ニッケイ新聞 2013年3月12日
在外被爆者たちの「空白の10年」の記録を残そうと、広島市立大学の広島平和研究所から田中利幸教授(63、福井)が来伯、1日に本紙を訪れた。
「空白の10年」とは、国の援護や全国的な支援組織がなく、被爆者らが後遺症や差別に苦しんだ原爆投下後の10年間「空白の10年」を指し、近年ようやく光が当てられるようになった。田中教授は「この期間に被爆者がどんな生活を送り、どんな運動をしていたのか、今の内に証言を取り後世に残したい」と語る。
日本国内での聞き取り調査を終えたため、韓国、米国、北朝鮮、カナダ等在外被爆者の主な居住地のうち、「ほとんど研究が進んでいないブラジルに焦点を」と決めた。
当地には1週間滞在し、ブラジル被爆者平和協会の役員など8人から証言をとった。「ブラジルに来た動機や、日本国内の被爆者と違う苦労も記録に残すべき」と考え、移民史の研究も始めている。
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たなか・としゆき
1976年イギリス留学、その後、メルボルン大学で20年以上日本史を教えながら、第二次大戦時に日本軍の捕虜となったオーストラリア兵の研究に携わった。11年前に同研究所に移り、原爆問題に取り組むと共に、「核兵器廃絶を目指すヒロシマの会」を立ち上げ、被爆者と共に反核運動を行う。