ニッケイ新聞 2013年2月2日付け
南大河州のクラブで火災があり、230人余が死亡するの事件が起こり、いささか憮然たる心でいたところ、こんな憂さをも吹き飛ばすような珍しい本に出会い数日を愉快に過ごせたのは何とも幸せだった。明治44年(1911)に創刊され大正12年までにほぼ200篇発刊された「立川文庫」の一冊で戦後の復刻版だが、これが何とも面白い▼風呂上がりにページを開くのに格好の読み物であり、あの群雄が割拠し覇権を争う戦国時代の勇壮な乱世が豪快に描かれている。今の大衆文学—つまり娯楽小説だが、ベストセラーもあり、活動写真(無声映画)になったり、熊さんや八っつぁんの人気はとても高かった。あのノーベル文学賞の川端康成や松本清張らも少年時代に愛読し「猿飛佐助」「霧隠才蔵」に熱中したそうだ。大阪の立川熊次郎が講談師の玉田玉秀齋と手を結び出版したものだが、携帯に便利なように袖珍本にし、文章も「講談調?」で勇ましい▼その面白く痛快なることは言うまでもない。遯生が入手したのは。真田十勇士の「三好青海入道」だが、この痛快無比の強さには、唯々仰天するしかい。上杉謙信の城では庭にある直径が3尺近くの松を引き抜き、120貫超の庭石を軽々と持ち上げ投げ飛ばすなど豪快無双の武者振りであり、我が老残の胸も狂喜するほどに愉快なのでる▼庶民や職人らは、この「立川文庫」を薄暗い電灯の灯で「熟読玩味」し、戦国の荒武者の勇壮な活躍に学び、意気軒昻となって日々の仕事に精を出したに違いないと—信じたい。(遯)