【既報関連】サンパウロ州海岸部グアルジャーで3日、「子供を誘拐し黒魔術の儀式で殺している」という噂を信じた人々からリンチに遭った女性が2日後に死亡するという痛ましい事件が起きた。
5~7日付伯字紙によると、犠牲者は33歳の主婦ファビアーネ・マリア・デ・ジェズースさんで、思わぬ噂が、夫と2人の娘と共に平和に暮らしていた彼女の命を奪った。発端はフェイスブックの「グアルジャー・アレルタ(警報)」で流れた黒魔術誘拐犯の噂だ。掲載された写真は2年前リオで起きた乳児誘拐未遂犯のモンタージュで、リオ出身のファビアーネさんに似ている。
ファビアーネさんはカトリック信者で、同市内では行方不明になった子供もいない。だが、子供を二人亡くして双極性障害を患い、思考が飛ぶことがあった。加えて事件当日に彼女が持っていた聖書を黒魔術の本と混同し、誘拐犯だと思い込んだ住民たちは、自分たちで懲罰を下そうとした。
友人に貸した聖書を受け取って帰宅する途中のファビアーネさんを捕まえた一団は、彼女を縛り上げて殴る、蹴る、髪の毛を掴んで引きずるなどの暴行を加えた。ファビアーネさんは頭を角材で殴られて頭蓋骨骨折の重傷を負ったほか、失神後も頭を自転車で轢く、片手にロープを縛りつけて引きずるなど、暴行はエスカレートした。
ファビアーネさんは別の住民から通報を受けた警官により病院へ運ばれたが、5日朝死亡した。
遺族側弁護士が5日に警察に提出したビデオには、女性への配慮などは一切ない容赦ない暴力が振るわれ、失神後に髪の毛を掴んで頭を起こした住民が手を放したために顔が地面に打ち付けられた様子や、顔が変形し声も出ない状況で罵詈雑言を浴びせる相手に何か話そうとした様子も映っている。警察が担架で運び出す際も最後まで罵声が飛んでいた。
ブラジルでは民衆が犯罪者を裁く「ジュスチッサ・ポプラール」が話題になることも少なくないが、今回の事件は、確証もないネット上の噂を基に弁護の機会も与えずに暴力が振るわれ、死にまで至らしめたもので、社会全体にも強い波紋を投げかけている。
6日の葬儀には約200人が参加し、「無実の人を殺した」と抗議のデモも行った。警察はリンチ参加の住民の割出し中で、その内の一人は6日のうちに逮捕された。