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話題――日本祭りに「和風ニョッキ」はいかが?

グルメクラブ

7月23日(金)

 拝啓 県人会の皆様
 本日からフェスティバル・ド・ジャポンが始まります。採算を顧みずあくまで郷土料理の提供にこだわる県人会から、ヤキソバ、天ぷらに走る利益重視の県人会までさまざま、その対応ぶりが傍目に興味深く映ります。さて、ここで提案があります。顧客となるサンパウロ市民にイタリア系が多いことを考えますと、アレンジ次第ですが、すいとんが意外なヒットメニューになる可能性を秘めている、そう思うのですが、いかがでしょうか。
 戦時中の貧しい料理といったイメージはいったんお捨てください。すっかりブラジルの食卓に定着したイタリア料理ニョッキが日本でどのように呼ばれているかご存知ですか。面白いことに通称「イタリアのすいとん」とされています。もちろん、ニョッキは野菜の入った小麦粉の団子汁ではありません。ジャガイモやカボチャを茹でて潰したものに、小麦粉、粉チーズ、卵を加え練った団子状のパスタで、トマトやクリームソースをかけて食べるのが一般的ですね。
 しかし、日本人は食感や見た目から、それを自国の料理文化に照らし便宜上、〃すいとん〃と言っているようです。逆に、すいとんをブラジルで「日本のニョッキ」としても問題ないでしょう。和風の感覚で調理されたニョッキ。それは恐らくサンパウロ市民の好奇心をくすぐる料理であると信じています。カップラーメンの日清・味の素の営業努力をご覧下さい。トマトヌードルですよ。ラーメンをブラジル人の嗜好にすり合わせようとの策でしょうが、確信犯です。
 そこでかなり気の早い話になりますが、来年のフェスティバルに向け、少しでもお役に立てればと、今回はニョッキについて書いてみます。まず不思議に思うのは、サンパウロ市民の間で毎月二十九日に食べる「決まり」があることです。忘れず食べれば、翌月二十九日まで幸運でいられると考えられているようです。由来が気になります。本場イタリアには中世からニョッキの原型が存在していますが、そんな慣わしなど古今見当たりません。ただ、伝統的に木曜日はニョッキの日と決まっています。昔々、信心深いキリスト教徒は木曜日に腹持ちのいいニョッキを食べ、聖なる金曜日には断食していた。その習慣の名残がいまもあります。
 イタリア起源という可能性はこれでなくなりました。なにやらミステリーめいてきますが、その出所をよく調べてみると、南米、分けてもアルゼンチンが浮上してきました。ある資料によると、「二十九日」に深い理由はなく、レストランの商業的戦略の一環として考案されたようです。それがサンパウロ市に移植されたのだと。オスカル・フレイレ街「La Bettola」のオーナーが七九年、アルゼンチンに旅行した折、持込んだのを嚆矢とする見方が有力です。しかし、八九年創業の「Quattrino」(本店イタイン・ビビ区)もまた、「うちが先駆者だ」と譲りません。いずれにしても、伝統と呼ぶには日の浅い風習と分かりました。
 俗に「正しい食べ方」とされる、例の「作法」も根拠となり得る裏付けはありませんでした。つまり、皿の下に紙幣を一枚入れておき、その紙幣は翌二十九日まで保管しておく、食べる時にはまず席を立ち願い事を浮かべ七個食べるといった類のことですが、迷信とみてもよさそうです。
 ニョッキは当初、イタリアでも小麦粉などで作られていました。十六世紀にトウモロコシがもたらされると、それが原料に取って代わり、いまの主流であるジャガイモが広く用いられるようになるのは、その後十七世紀のことになるようです。胃袋にずっしり溜まるボリュームと、モチっとした食感は、そう、日本の餅にそっくりです。イタリアでは長らく庶民のご馳走だったという点も共通しています。
 どうやら、イタリア料理に加えて日本の餅料理のレシピにも、ブラジル製和風ニョッキのヒントがありそうです。
        敬具

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