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「鉄道ビール」

グルメクラブ

10月8日(金)

 どこで飲むビールが一番うまいか、なんて人それぞれの好みなので、答えはありません。仕事帰りの居酒屋もありましょうし、ゴルフに行ってワンラウンドを終えたあとのクラブハウスを挙げる方も多いでしょう。列車に揺られつつ車窓の外の景色を眺めながら、というのが私が約三十年の人生で覚えた最高のシチュエーションですが、先日初めて手にとったアイゼンバーン(Eisenbahn)を飲んだら、列車の旅の友に実にふさわしい商品で、もっと早くこのビールと出会っていればと悔やまれてなりません。サンタ・カタリーナ州ブルメナウで二年前に産声を上げたビールだそうです。七日から同地で始まった、ビールの祭典オクトーバーフェストの開催期間中(~二十四日)は、工場見学可能とのこと。祭りは今年で二十一回を数えますが、ビール党の新たな楽しみがまたひとつ増えたようです。
 アイゼンバーンと言えば、ドイツ語で鉄道を意味します。列車に揺られながら飲みたいなんて、ただの連想ゲームじゃないかと叱られそうですが、ちゃんとした理由があります。アイゼンバーンは、製造タイプ別に四種類の主力商品があるのですが、うち二品は特別に冷やさなくてもおいしく飲めるそうです。これなら、わざわざクーラーボックスに氷と一緒に入れて列車に乗り込む必要はありません。夏のブラジルでも、日陰に置いておくよう心がければ十分。およそ何がまずいって、温いビールほどまずいビールはない。この国にいるうち、そんな暗示に自然にかかっていたのですが、こうしてむしろ冷やさず飲むのに適しているビールが、ブラジルにもあると初めて知りました。二十℃くらいの状態で飲んだらうまいというのです。どんなビールなのか、その正体が気になります。
 大別すると、アイゼンバーンには上面発酵ビール(エール)と、下面発酵ビール(ラガー)があります。前者は二十℃前後の高温で発酵されるもので、ヴァイツェンビア(Weizenbiier)、ペールエール(PaleAle)がそれに当たります。発酵温度と同じ温度で飲むのが最適。でも、草原に寝転びながら冷えたやつを、グビグビやってもOK牧場だそうです。五℃前後の低温で発酵させるのが後者。このメーカーからはドゥンケル(Dunkel)、ピルセン(Pilsen)が発売されています。世界各国の主流となっている醸造法で、きっちり冷やして飲んだら極上。温ければご苦情ものです。
 何より白眉はいずれの商品もおよそ五百年前の、一五一六年にドイツで制定された法律に厳格に基づいて生産されている点にあります。法律とは「ビール純粋法」と呼ばれ、ビールは水と麦とホップだけを用いて作るべしと定められています。これに従っていると誓えば、ほかの穀物などを混合することは決して許されません。繰り返します、水と麦とホップのみです。そんなの簡単なこととおっしゃるかもしれませんが、普段、私たちが飲んでいるようなビールはこれ以外の材料がほぼ確実に混じっているそうです。
 なんだか、そういう話を聞くと、ブラジルの大手メーカーが邪悪なものに見えてきました。マーケティングにばかり投資して、肝心のビールの素材や醸造に手を抜いていたのです。艶かしい水着女性の肢体にだまされていた自分を反省しました。ナナナナーと親しんでいたあの某ビールにも裏切られるなんて。ちょっぴりセンチメンタルな気分です。けがれを知らない、純粋培養のアイゼンバーンを携えて南部の山岳地帯にでも列車の旅に出たいと思います。

Cervejaria Eisenbahn(Sudbrack Ltda)
Rua Bahia, 5181, Bairro Salto Weissbach, Brumenau (47)330-7371

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