健康広場
春爛漫。そう記したいところだが、今年は天候不順でどうも落着かない。気温は、上がってきているようだ。十一月は死者の日(2日)、共和制記念日(15日)と祝祭日があり、多くの行楽客が海岸などに押し寄せるだろう。既に、年末年始の旅行が気になる人もいるかもしれない。この時期は、デング熱に注意が必要になってくる季節でもある。サンパウロ州で〇四年一月~五月まで、デング罹患者は二千二百四十四人で前年(〇三年)の一万九千三百五十九人に比べて、八八・四%減少。大きな飛躍を見せたものの、油断は許されない。
「HIV(エイズ)の予防には前進が見られたけど、デング熱の感染は広がった」
今月三十一日に、サンパウロ市長の決戦投票が実施される。保健問題は争点の一つだ。マルタ・スプリシーサンパウロ市長(PT)は、カルドーゾ政権(PSDB)時代の保健行政について批判。対抗馬ジョゼ・セーラ元保健相(同上)を牽制している。
一方、マラリア、デング熱の予防に向けられた連邦政府の予算七千万レアルのうち、八月末までに実行に移された額はわずか七百三十万レアル。ルーラ政権(PT)も苦しいところだ。
保健分野での市に対する評価について、サンパウロ市民の五一・五%が「悪い」、「最悪」と答えているデータ・フォーリャの調査も過去にある。
矢島カルロス援協診療所所長は「昨年、一昨年と患者さんが多くてひどい状況でした。これに対して、政府もかなり対策を練ったはず。でも、何が起こるか分からないのがブラジルです」と、警告。都市部でも感染例はちょくちょくみられるので、安心は出来ない。
デング熱ウイルスを持つ蚊(ネッタイシマカ)に刺されることで、感染するのは周知の通りだ。「ネッタイシマカには、黒と白の斑点があり肉眼で見ることが出来る。それに、この蚊は夜間ではなくて昼間に活動するので見分けやすい」(矢島所長)。通常五、六日の潜伏期間を経て発病する。
主な症状は(1)三十八度~四十度の熱、(2)関節痛、(3)筋肉痛──など。嘔吐をもよおすもある。一見、風邪と混同してしまいそうだ。
矢島所長は「体中が痛むので、風邪と誤ることはないでしょう。風邪は七、八日経てば治りますが、デングは日増しに症状が重くなって、血尿が出ることだってあります」と両者の相違を強調する。
危険なのが、デング出血熱。皮下、鼻腔、歯肉などに出血を伴う疾患で、原因は未だはっきりしていないという。死亡率も一〇%と高いようだ。
治療では、解熱に最大の努力が払われることになる。熱が下がれば、後は自然に回復していくのを気長に待つだけだ。
矢島所長は「ノヴァウジーナ(NOVALGINA)」や「チレノウ(TYLENOL)」の服用を薦める。「アスピリーナ(ASPIRINA)」は出血を助長させる結果になるので、避けたほうがよいのだそうだ。
予防接種や予防薬、専門薬は存在しておらず、病気にならないための環境を整えていく必要がある。つまり、蚊の繁殖を促すような溜め水をつくらないことだ。
ボウフラの発生場所と聞けば、汚水をイメージ。ファベーラ(貧民窟)など生活環境の悪い地域をつい思い浮かべてしまう。「ネッタイシマカは、きれいな水も好む」(矢島所長)。
北東部のある町で、市がかなりの予算をかけ、蚊の撲滅作戦を展開。一定の成果を上げた。しかし、住民への指導が十分になされなかったため、水の溜まる場所は減らず、再度デング熱が広がり始めたそうだ。住民の地域社会への参加もがデング熱予防への大きな鍵を握っている。