健康広場
11月10日(水)
「これ、とても健康でおいしいのよ」
昨年末、マセイオ市(AG)の谷広海さん(64、宮崎県出身、ブラジル日本語センター理事長)宅を訪れた時だった。妻、涼子さんが何メートルもある樹木から、網で一つの果実を採取。味見するように薦めてくれた。
片手ほどの大きさの黄色いフルーツ、カジューだった。「カスターニャ・デ・カジュー(castanha de caju)」でお馴染みの果実だ。実は、ナッツ状の部分が本当の果実で中に種があり、果汁がいっぱい詰まっているところは鳥獣類に対するカモフラージュだそう。
これが、実に甘い。もちろんサンパウロ近郊でも生っているが、本場ノルデステ(北東部)は味が違う。谷さんは「ピンガを一杯飲んだあとにカジューを食べると、酒の味が舌に残らないでいい心地になれる。店でもよく、四つ切りぐらいにしてピンガと出しています」。
体が一日に必要とするビタミンCは、六十ミリグラムだ。果肉(偽の方)のジュース二百ミリリットル中に、二百ミリグラムのビタミンCが含まれている。アセロラの千五百ミリグラムには及ばない。が、オレンジ(四十ミリグラム)の五倍に当たる数字だ。
酸化抑止力は、白内障の予防にもつながるという。雑誌のインタビューに対し、栄養士のエウマ・ワルタさんは「フェノールを含んでおり、心臓病を防ぐ効果もある」と証言。
化学・植物学者のレリングトン・ロボ・フランコさんは「鉄分やカルシウムは貧血を防止したり骨格を強化する作用がある」とし、子供や妊婦の日々の献立に薦める。
では本当の実(カスターニャ)のほうはどうかと言えば、こちらも栄養価が高い。脂肪酸が豊富で悪玉コレステロールを退治。亜鉛やセレニウムは、特に前立腺がんの発症率を縮小させる力がある。さらに、繊維は腸の壁を浄化・保護。骨粗しょう症を予防するのに足るカルシウムが含まれている。
俗に「カジューの雨(chuva de caju)と言う。一雨降ると短期間の間に実が生ることから、そう表現される。雨季に入っていく、こらからの季節が一番の食べごろだ。一大産地は、マセイオよりもっと北のセアラー州。国内の九〇%を供給しているという。
同州内に住むインディオのトレメンベー族に、伝わるダンス「トレーン(Torem)」。地域の動物相を表現したシンプルな踊りだ。最高潮にはカジューを発酵させた「モコロロ(mocororo)」と言われる飲み物が振舞われるという。
このほか、伝統芸能や詩などの題材によくなり、庶民の間に定着しきった果物だ。もちろん、原産はブラジル。
九月から市場に出回り始めると聞き、先日リベルダーデ区のフェイラに寄った。が、姿が見当たらない。理由を尋ねると、フェイランテの一人は「とても痛みやすいので、セアザからここに持ってくるまでダメになってしまうだよ」と残念がった。
が、カジューにもいくつの種類があり、その中でも比較的丈夫なものを次回店頭に並べてくれるという。買い物の楽しみが、一つ増えた。