健康広場
11月24日(水)
衣装ダンスには一束のローズ・マリー、そして食事や間食のたびに一杯のカモミール・ティー。「ハーブ医療」に初めて触れたのは、かれこれ十年ほど昔、英国中西部の田舎町で老夫婦に世話になったときのことだ。
「来客をもてなすのは、カモミールが一番よ」と主婦のバーバラさん。精神を安定させる作用があり、相手に安らぎを与えるのだと言った。ローズ・マリーは、防虫剤として使用。クリーンでさっぱりした香りは、眠気覚ましにもなる。ハーブを生活に取り入れるのは、家庭を預かる女性の知恵として代々受け継がれてきた。
定年後の〃長い〃老後をいかに健やかに過ごすか?
高齢化社会の日本ではハーブを含めて健康食品、整体・気功、新興宗教(?)などが人気だ。検査、投薬、手術に代表される現代医療。確かに即効的な効果は大きいかもしれないが、生身の人間を疎かにしがち。そんな不信感が、人々を民間療法に走らせるのかもしれない。
まして外国在住者になると、言葉の壁もあって病院で診察を受けるのはちょっと不安。民間療法が気軽で穏やかそうだ。日系コロニアでも、様々な健康増進方法が口コミで広まっていくように感じる。
植物相豊かなアマゾンはハーブの宝庫だ。健康食品として、数々の品物が日本にも輸出されている。その一つカルケージャ(carqueja)。「良薬口に苦しか」。初めて口にしたときの苦味のイメージが、今も忘れられない。二、三口が精一杯。それ以上は喉を通らなかった。
健康茶なら紫イッペーのほうが、むしろ知名度が高いかもしれない。肝臓に不調を訴えると、カルケージャはガジュツと並んで飲用を勧められる。効き目は、専門家たちのお墨付きだ。バールでも注文できるので、身近な存在だろう。普通は、一日に三回ほど煎じて飲むのが理想的のようだ。
緑色の多年草で、一~二メートルほどに伸びる。アマゾン地方に居住するインディオが数世紀に渡って利用。カンドンブレの神オリシャの信奉者には、驚異的なパワーを持つと信じ幸運を掴むため入浴時に葉を浴びる人もいるらしい。
カルケージャが、ブラジルのハーブ医療界に登場してきたのは一九三〇年代。ビオ・コレア氏が強壮、解熱、胃腸機能強化に有効だと紹介したのが嚆矢だ。以後、欧米の科学者たちの研究対象になってきた。
ヒスピドゥリン、ケルセチン、ネペティンなどのフラボノイドを豊富に含有。肝臓を保護する働きをする。このフラボノイドが苦味の正体だ。マラリア、扁桃炎、狭心症、貧血、ハンセン病など効用を挙げるときりがない。潰瘍の予防、血糖値抑制効果も実証済みだ。
「アマゾン秘宝の××」「これで××は治る」など、健康食品の広告の中にはそんな大言壮語が目立って、商魂がちらほら。効き目が表れないものなら、病人の弱みに付け込んだ悪徳商法だと愚痴の一つもこぼしたくなるだろう。薬効の曖昧さが、民間療法の弱点でもある。効くか効かないか──。その最終的な判断は、本人に任されている。 (古)