グルメクラブ
1月21日(金)
相場は三~五レアル。中には無料のところもある。エスコーラ・デ・サンバの練習日の入場料だ。しかるにわたしは十六日、北部フレゲジア・ド・オーに拠点を置くローザス・デ・オウロで二十レアルも徴収された。「入場料10レアル」。十四日発売のタルデ紙にはそうあった。赤丸印もつけた。だが、入り口の男は「値上がりした」と譲らない。ローザス。美しい花にはやはりトゲがあるらしい。サンバ〃学校〃の〃演習〃参観料が二十レアルとは謎に満ちている。
普段なら厭世的な夜になってしまうが、この日は機嫌が良かった。四十七日ぶりに、五増六腑をビールに浸していたからだ。同じ区内の居酒屋「フランゴー」。ドイツ、チェコ、イギリス、ベルギー、タイ、日本、メキシコ、ウルグアイ、アルゼンチン等等、世界のビールを揃える店だ。地下鉄南北線のターミナル、バーラ・フンダ駅からバスに乗り、落書きの目立つ陋巷を抜け、チエテ川を越え、丘を登り。わたしは赴いた。
ラズベリーやチェリーを漬け込んだベルギーのフルーツビールを飲みたかった。ローザスのチームカラーはピンク。練習会場に足を運ぶ前に、赤いビールで景気をつけたいと考えていた。ワイン、シャンパンにもロゼはあるがいわく、「サンバ、スオール、セルヴェジャ」。サンバの汗にはビールが正解だ。今夜はバラ色の汗をかいてみたい。そう青写真を描いていた。結論からいうと願いは成就しなかった。舶来物は二十五レアル以上。ドイツの、キュベなんたらカイゼルは百八十レアル前後。恐れ入った。実際手ごろな価格なのは国産のみだ。で、ペトローポリスの『ペトラ・プレミウム』、サンマヌエルの『マエ・プレッタ』を賞味した(いずれも黒ビールだ)。あまつさえ、ウルグアイとアルゼンチンのビールは一リットルのお徳用ラガービールだと分かり、がぶ飲み。ブラジル以南の連中はどうして大瓶一リットル入りを好むのか。サッカーのマラドーナの太鼓腹はそのせいか。
場面はエスコーラに戻る。今年のテーマは「バラの世界史」について、だと知った。行進曲の歌詞で、(海の泡から薔薇と一緒に生まれた)アフロディーテから、英国のバラ戦争、ヴィニシウス・モラエスが作詞した『ヒロシマのバラ』、ドリヴァル・カイミの歌『ローザ・モレーナ』まで言及している。
でもね、わたしは思った。革命家ローザ・ルクセンブルグはどうした。ウンベルト・エーコ著『薔薇の名前』もないじゃん。極東の文化風俗史まで包括するなら、マイク真木の『バラが咲いた』、酒鬼薔薇聖斗、同性愛誌の草分け『薔薇族』も忘れているぞ、コノヤロー。と日本語で叫びながら隊列の中へ分け入った。この夜の赤ら顔した東洋人の悪態は、二十レアルの軽い仕返しだと思ってくれてもかまわない。
Frango
Largo da Matriz de N. Senhora do O, 168 – Freguesia do O
Telefones 3932-4818/4284 – Sao Paulo – SP