健康広場
2月10日(木)
サンパウロ市内在住の七十代男性から「最近、もの忘れがひどいのですが、何か対策はありますか」と質問を頂いた。よく県人会などに集まる高齢の一世から「近ごろものが覚えられず、ボケ気味」との言葉を聞かされるが、「もの忘れ」と「ボケ」は医学的に全く別物であることを強調したい。もの忘れは病気ではないが、ボケ(痴呆)は病気として考えられている。老化現象の一つとなるもの忘れは、誰にでも起きる物で決して特有の症状ではない。もの忘れの実態を知り、出来るだけ脳を若く保つ方法を考えよう。
まずもの忘れとボケの違いについて考えよう。
「あの人の名前は何だっけ?」「覚えていたことが思い出せない」などというもの忘れは、加齢による自然現象で病気ではないし、大抵の場合生活には支障がない。
人間の大脳皮質には約百五十億個の神経細胞があり、人の顔と名前を一致させたり、記憶を思い出したりと様々な情報を伝える役割を担う。しかし、一日十万個の割合で死滅するほか、五十代以降では一日に二十万個が減少していく。
年をとった人間がもの忘れを起こすのはある意味で当然だと言えよう。
ただ、健全なもの忘れ(加齢による自然作用)と危険なもの忘れ(ボケの前兆)があることも事実。
まず表で問題ないもの忘れと痴呆の可能性があるもの忘れを比較してもらいたい。
(1)ものを忘れているということの自覚がない(2)約束した時間や場所がゴチャゴチャになる(3)同じ行動を繰り返してしまう――この項目に思い当たる方は単なるもの忘れではなく痴呆の可能性があるので注意が必要だ。
「夕食に食べたおかずを思い出せない」というのは単なるもの忘れだが、「夕食したことさえ覚えていない」というのは痴呆。
さらに次の文を家族などに読み上げてもらい、単語だけでいいので覚えている言葉を書き出して欲しい。
「今日、昼の 一時から リベルダーデ広場で 東洋祭があった 雨の 鬱陶しい日だったが 五千人ほどが 集まった 最初に はっぴ姿の 日系人が 太鼓の叩き方を 非日系に 教えた」
どうだろう。三分の一以上が書き出せていれば、問題はないと考えられる。
確かに加齢による衰えは避けられないが、「もの忘れは年のせいだから仕方がない」と諦めるばかりではないのも事実。
こんな動物実験のデータもある。好きな遊び道具がふんだんにある広々とした小屋で飼われたネズミと、狭い所に押し込められ、ストレスをかけ続けたネズミとでは記憶を司る細胞の変化に大きな差が出たという。つまり、日常生活で様々な交流を深め、「良質」の刺激や体験をすることでもの忘れに歯止めがかかるという訳だ。
逆に、酒の飲み過ぎや酸化した脂をふんだんに用いた食事、糖分の多い清涼飲料水は脳の働きを鈍らせてしまう。
次回は食事で出来るもの忘れの防止法や日常生活で心がけたい事柄などを紹介しよう。
問題ないもの忘れ 痴呆のもの忘れ
食事の内容を思い出せない 食事したことさえ忘れる
状態は悪化しない 状態が悪化する
約束自体は覚えていた 約束したことさえ覚えていない
自分のいる場所が分かっている 自分のいる場所さえ分からない
もの忘れをしているという認識あり もの忘れをしている認識なし