グルメクラブ
4月29日(金)
アマゾンの料理、食べたいんですけどオ。
交流団体を通じて、あるいは語学やスポーツ留学のため、この時期日本からわんさかやって来る青年らが、そんな要望を出して来たらどう対処する?
ブラジルといえば日本ではまずアマゾンだ。移住者なのに、「いい店を知らない」と答えるのもちょっと恥ずかしい。だって、既に滞在歴ウン十年でしょ。
「そんなのアマゾンに行って食べろ!」「サンパウロの環境条件ではおいしくないんだから」と一喝。評判のシュラスカリアか、フェイジョアーダの名店に連れて行く例年の定番コースでお茶を濁す手もある。
ただ、私はもう飽きたな。何も知らない新来青年を捕まえて、ブラジル通を気取るのは。「この国では牛肉は余っているからどんどん残してね。ブッフェに各国料理が見当たるのは移民の国らしいでしょ」とか、「奴隷の料理だったという説がまっ、一般的だけど、異論もあってね。フランス料理のカスレーが原型らしいよ」と十年一律のごとく解説していてもねぇ。
好奇心がもし衰えてないなら、彼らと一緒にブラジル初心者に戻って、なじみの薄い料理を味わう心意気があってもいい。といっても、確かに、都会で普通のアマゾン料理を食べても何か物足りないと思う。アマゾン風だけど、都会ならではのブラジル料理はないものか。日本から来た青年たちはブラジルを日本より〃格下〃に見る向きがあるから、サンパウロの洗練さも見せつけたいし――。
そんなわがままな注文に答えてくれるブラジル料理界の鉄人、いや、「ドン」がいる。レストラン「D.O.M」オーナーシェフで、いまあぶらがのっているアレックス・アタラ。数多くのメディアが寵児として取り上げ、最近では週刊誌「エポカ」四月十一日号の巻頭インタビューに登場していた。その独自性は、ブラジルの食材と現代フランス料理の斬新な融合にある。インタビュー記事の見出しは「ドブラジニャ・エ・シッキ」。ブラジル料理ルネッサンスの旗手だ。
アタラは、特にアマゾンに魅せられている。地球の三分の一の酸素を生み出す動植物の宝庫。既に医薬・美容品の世界で注目されてきたが、今度はその地域に特有な食材が、西欧グルメ関係者の熱い視線を集めだしているようだ。
きっかけは、今年一月にスペインで開催された「インターナショナル・マドリッド・フュージョン2005」。各国から気鋭のシェフ、料理ジャーナリストが招かれるグルメのイベントで、アタラは「アマゾンのテロワール」を反映させた料理の数々を紹介し、賛辞を浴びた。テロワールとは、ワインを評するときにしばしば見かける言葉だ。固有の気候風土、さらにその土地の人間と自然が一体となって生まれてくるものまでを意味している。
アタラが好んで用いるのはフィリョッテと呼ばれる魚や、サトウキビの糖蜜、ツクピー、ジャンブーの葉、幾種かのファリーニャ、タピオカ、森林に自生する独特の香草や果物など。そのほか、ブラジル一般の食材ではキアボ、ジロー、シュシュ、バタタ・ドッセ、カイサーラが食べるカラーと呼ばれるイモと野菜が中心のようだ。
フィリョッテの料理は例えば、ツクピーとタピオカで作ったソースを添えている、と言ったら簡単そうに聞こえるが、実際の調理はかなり複雑。本格コック経験のない私では理解できないし、材料や手順をすべて記せば五十行は費やしそうなボリュームなので割愛する。グルメ雑誌「GULA」三月号が「ア・フロレスタ・ナ・メザ」と題し、そのイベントやアラタ旋風について報告しており、レシピにも詳しい。
記事では、「アマゾンは、世界中の料理人が求める創造の源泉となるだろう」と語る、西欧一流シェフの言葉が目を引いた。そうか、未来の国ブラジルには、グルメの未来もあるのか。フランスの「ブラジル年」にあたる今年、さまざまな文化関連イベントがパリを中心に開催されているが、アタラがパリの最高級ホテルでその手腕を発揮する機会も設けられている。
パリで今度紹介されるアマゾン風フランス料理を食べに行こう。と誘えば、流行に敏感な新来青年の目色の輝きも違うはず。え? まずはオマエから実践してみろって。ぼ、ぼくの財布では屋台の串焼きをおごるのが精一杯だなぁ。
◎
レストラン「D.O.M」にはタピオカと牡蠣のエンパナーダ、菜園と森林の香草を使ったキノコ風味のコンスメスープといった料理が並ぶが、昼のブラジル・エグゼクティブ定食も面白い。サラダ、紫と黒のフェイジョン、ジャガイモのソテー、コウベとベーコンの炒め物、揚げバナナ、ファロファが付け合せになり、牛肉の薄切り、鶏のフィレ肉、マトウダイの中からメイン料理を一品選ぶ。
ジャルジンス区バロン・デ・カパネマ街549。電話11・3088・0761。