健康広場
6月15日(水)
もし日本映画をいくつか紹介しろと言われたら、五社英雄監督の「薄化粧」(一九八五年)を挙げるかもしれない。
舞台は、昭和二〇年代後半の日本。脱走中の殺人犯(緒形拳)が素性を隠して飯場を渡り歩き、流浪の末に薄幸の女(藤真利子)と出会う。真実を明かせない男と、心に傷を持つ女。飲み屋のカウンター越しに交わす、二人の心理描写が味わい深い。
もっとも、公開数年後に人気女優への階段を上っていく浅野温子が出演。緒形との濡れ場をみせて、話題を呼んだが……。犯人逮捕に執念を燃やす刑事の追跡から、逃亡犯は結局逃れられない。別人になるため、外出時に眉墨を引くことを習慣にする。
このような世界は、もう生まれないかもしれない。現代は、美容整形の時代。ブラジルで〇四年に、形成外科を含め八十万人が整形手術を受けると推定されていた。
医療関係者によると、日系人は羞恥心が強く体にメスを入れるのを敬遠するそうだ。むしろ、自然美容が受け入れられやすいのだろう。容姿は両親から授かった大切なものだ、という意識の現れとも解釈したい。
美容果実として、ピタヤ(ドラゴン・フルーツ)が市民権を獲得しつつある。和名は、龍王果。真っ赤な外見が龍のうろこのように見えることから、命名されたらしい。
糖度は十六~二十。さっぱりした食感で、キウイに似ている。「ここ二、三年じゃないかな。まだ一般に、余り知られていないんですよ」。約五十年前から市営市場にブースを構える青木幹旺さん(71)=サンパウロ市=は、知名度アップに期待を膨らませる。
視線が集まるのはビタミンC、ヒアルロンサン酸、コラーゲンを含んでいること。美肌や染み予防の基本要素だからだ。成分の八割が水分。水溶性の可食繊維が多く、整腸機能を改善し大腸がんの発生も抑える。
さらに、カロチンの十倍以上の抗酸化力を持つアシトシアンを多含。目の健康によいほか、認知症(痴呆症)の防止につながる。このほか、貧血・神経症・口角炎などに効果があり、底力は計り知れない。
白肉、赤肉種、イエローピタヤの三種がある。赤肉種はジュース、シャーベット、口紅などに天然色素として用途が広がる。ただ、高級果実の域を脱していない。一キロ三十~四十レアル。青木さんは「三、四箱仕入れて、週末に捌くのが精一杯」とこぼす。
市場に多く出回るようになれば、値段は下がるわけだ。ピタヤは、南メキシコ・中米原産のサボテン科。病害虫・暑さ・干ばつに強く、無農薬・有機栽培が可能だ。
ジャカレイ市に居住する、ある日本人農家(66)は「苗を四千~五千本所有し、今のところ個人消費をしている。消毒に手間がかからないので、栽培技術さえ確立すれば普及するのではないか」と見解を示す。例えば、ノルデステの貧困地帯で大規模に栽培すれば、一石二鳥にならないだろうか。