グルメクラブ
7月8日(金)
ワインといえば「青」。そんな時期がブラジルにはあった。八〇年代から九〇年代にかけ、国内市場に出回った輸入ワインのおよそ六本に一本がそれだった。
LIEBFRAUMILCHといった。ドイツ語でリーブフラウミルヒ。たいていの人は発音できず、ガラス瓶の色を称し、「青」の名で呼んでいた。
甘口の、いわゆる「飲みやすい」白ワインで、品名は「聖母の乳」を意味した。マリアが赤子のキリストを抱いている姿を描いたラベルの図柄も親しみやすく、大衆の心をつかんだ。
かつての「青」ブームの残滓を先日、うらぶれた酒屋で目にしたのでここに思い出し記した。その後興味で調べてみると、あのEXPANDが輸入していたと知って、意外の念に打たれた。
全国に二十八店舗、年間の総売上げ十七億レアルを計上する最大手の高級ワイン業者が昔は、である。どうやら一九七八年に創業したものの、「輸入自由化」以前は鳴かず飛ばずだったらしい。それが「青」の大ヒットで勢いづき、現在の繁栄を築いたと分かった。
伸び盛りの高級ワイン需要を背景に、ゆくとして可ならざるはない印象の同社が発行している広報紙六月号を、金満家御用達の食材店(エンポーリオ)、サンタ・マリアで手にとった。
「今月のニュース」は、リオ・ソルの発売だった。北東地方ペトロリーナ産の「トロピカル・ワイン」だ。ポルトガルのワインメーカー、ダォン・スル、そして同地域のブドウ栽培業者と組んでジョイント・ベンチャーを設立したEXPANDの、グローバル戦略ワインと言っていい。フランスの「ブラジル年」である今年。食の都パリ屈指の高級食材店フォーションで販売されることも決まった。
フォーションのオリジナル商品を扱ういわば「姉妹」店、サンタ・マリアで開かれたリオ・ソルの発売記念会にはパリからフォーションの重役も駆けつけた。「フランスではロマネ・コンティやペトリュス(どちらも最高級仏ワイン)はどこでも出会える。でも、リオ・ソルはうちだけだね」と、独占販売できる喜びを語った。
地球上でワインに適するブドウが生育するのは北緯三〇~五〇度、南緯二〇~四〇度の「ワインベルト」の間だけという常識を覆した、その産地は南緯八度。サンフランシスコ河流域の風土と、年間平均気温二十八度の年中夏日の気候が、ブドウの二期作を可能とした。
カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、アリカンテ・ブーシェの三種を配合するアッセンブラージュと、カベルネ・ソーヴィニョン、シラーそれぞれ百%で出来た品が主力で、いずれも二〇〇三年物(四十八レアル均一)。すでにイギリスやポルトガルのワイン専門誌で賞賛されているほか、このほど行なわれた国際コンクールではブラジル唯一の金メダルを獲得した。
国産ワインはリオ・グランデ・ド・スル、そして輸入ワインはドイツという日々もあったが。――
飲むワインや 「青」の時代は遠くになりにけり。