健康広場
2005年7月13日(水)
「日本語が通じて、日本のものが手に入るので安心ネ」。東洋街の印象を聞けば、日本人旅行者から必ずといって良いほど返ってくる答えだ。来伯後間もなく、薬局で正露丸を見つけた時は感激した。
日露戦争の頃から親しまれてきた胃腸薬が、地球の反対側で服用出来るとは予想だにしていなかったからだ。さすがは海外最大の日系コロニアと、妙なところで感心してしまった。
ある日系企業の元リオ駐在員がこのほど、二年振りに仕事で来伯。一カ月間、サントス市内のホテルに泊り込んでいた。夕食をほとんど取らなかったという。「ブラジル料理は重いから、胃もたれを起こしてしまって……」。
西洋食に慣れた世代と言っても、食生活の変化は体に堪えるものだ。日本人は元来、胃腸の弱い国民だと思う。農耕民族で繊維の多い穀物を常食。腸も長く出来ている。
先の大戦後、食卓の西洋化が進んで動物性タンパク質を取るようになった。脂質は消化されにくいため、相当の胃酸がいる。欧米人に比べて日本人は胃酸の分泌量が少なく、胃の粘膜も薄い。その結果、胃もたれや胸焼けを起こしがちだ。
現代社会は、ストレスが追い討ちをかけている。胃腸薬に使われる薬草で、近年増加傾向にあるものと言えば、グァサトンガ。「効き目は、抜群です」。フィトガレン薬局の井ノ上俊介さん(薬剤師・薬学修士)は、言い切る。
胃潰瘍でただれた胃壁を修復する作用を持ち、胃・十二指腸潰瘍の特効薬だ。胃潰瘍モデルのラットを使った実験で、胃酸分泌量が低減したことが証明済み。安全性も高い。
博物研究会主催の薬草講演会(昨年十一月)でも、講師の秋末剛吉氏(薬学博士)が開口一番に挙げたのがグァサトンガ。薬効は、折り紙つきだ。
井ノ上さんが『FFIジャーナル食品・食品添加物研究誌』に寄稿した研究文によると、熱帯アメリカに自生する高木で二十メートルまで達する。ブラジルでは、バイア州からリオ・グランデ・ド・スル州まで植生。特に、南部の高原でみられる。
もともと、先住民が樹皮を下痢止め、根・種子を傷・熱帯ハンセン病、葉を蛇に咬まれた時の治療薬に使っていた。その後、やけど、強壮、抗リュウマチなどに用途が広がった。
最近注目されているのが、抗がん剤としての利用だ。東京薬科大学薬学部の糸川教授のグループが一九九八年と九〇年に葉のエタノール抽出物から抗腫瘍活性があることを報告。米国では製薬会社などが新しい抗がん剤の開発を目的に、応用研究を進めている。
フィトガレン薬局は、グァサトンガ、ガジツ、エスピニェイラ・サンタの三種を配合。相乗効果を引き出した「GASTRITE ULCERA」を販売している。胃炎・胃潰瘍を始め、消化不良、胃もたれ、食欲不振の患者に服用を勧めている。
井ノ上さんは八九年に、ナチュラル・グループのブラジル関連会社、アリメントス・ナチュナル・ド・ブラジルに出向。自身で商品開発・販売を手がけたいと、九六年に退社し、薬局を始めた。
現在扱っているのは、約五十種。「会社にいれば、商品化されるのはごくわずか。でも、自分でやっていれば、自由に出来るんです」と目を輝かせる。井ノ上さんにとって、ブラジルは宝の山のようだ。