健康広場
2005年7月27日(水)
「職員の保険料を七十レアルから百レアルに、値上げさせてもらえないだろうか」。健康保険会社最大手の一つ、スル・アメリカが昨年、援協に〃泣き〃を入れてきた。団体加入している職員が医療機関を利用しすぎる結果、支出が増えて困るというのだ。
診療所や総合病院を傘下に収める援協。職員はどうしても医師と接する機会が増えるため、診察を受けにいきやすい環境にある。
保険料は、職員が三分の一、援協が三分の二を負担。日伯友好病院は、全額病院側がもっている。値上げにより、支出が約四十八万レアル増大するため、ポルト・セグーロ(月額約八十レアル)に切り替えた。
フジイ・ツトム友好病院技術部長は「保険料を毎月支払っているから、しっかりアプロベイター(利用)しようと考えているんだ。みんな、損はしたくないから」と話す。援協に限らず、消費者には元を取らなければならないという心理が働いているようだ。
「いざ病気になった時に、市民が困らないように」という共済の精神が、健康保険の基本にある。被保険者がむやみに医療機関を使うと、保険会社の支出は抑えられず、保険料に転嫁させざるを得ない。保険会社はただでさえ、法令上、不利な立場にある。
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国家保健監督庁は先ごろ、今年の保険料の値上げ幅を一律上限一一・六九%にすると発表した。IPCA(広範囲消費者物価指数)のインフレ率が八・〇七%(二〇〇四年五月~〇五年四月)だから、三・六二ポイント高い指標だ。
昨年は、インフレ率五・八九%(IPCA)に対して、一一・七五%。調整がインフレ率を上回ったのは二年連続になった。健康保険法の発効後に、契約を結んだ人が対象。市場の十四%に当たる約五百六十万人が影響を受ける。
数字だけを見れば、「欲の皮が張った健保業界」と消費者から謗られかねない。同業界は、不十分だと主張。「コストを技術的に検証しなければ、収支のバランスが悪化してしまう」と懸念を表明する。
一九九九年一月までに契約した保険プランについて、法令上の規制がないため、各社は自社の基準で値上げ幅を判断。問題はさらに複雑化している。
スル・アメリカとブラデスコは今年、それぞれ二六・一%、二五・八%アップを打ち出した。値上げ幅が不当だと、消費者保護団体などが提訴。司法の判断を待っていた。このほど民事法廷で、スル・アメリカは九九年一月以後の契約と同じく一一・六九%、ブラデスコは一五・六七%に制限する旨の判決が出た。
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「健保業界が近い将来崩壊しても、何ら驚きではない」。外科医のカワムラ・アウベルトさん(55)が先日、伯字紙に投稿、警鐘を鳴らしていた。
医療費と保険料のアンバランスが続くと、保険会社の赤字が増大。病院への支払いが不能になり、医師の給与が減額、新たな設備投資も出来ない。「医療業界の成長は停滞している」。
民間の健康保険は、中産階級以上を対象にSUS(統一保健システム)を補完するものとして誕生。政府の社会保障事業に、力を貸すものだ。現制度化で、機能不全を起こしてしまっている。
大久保拓司友好病院院長によると、保険会社の淘汰が進み、大手が中小企業を吸収合併しているのが現状だという。
医師が選ぶ保険会社ランキングが〇三年に、発表された。第一位になったのは、フンダソン・セスピ(Fundacao Cesp)だった。同社は窓口での自己負担を設け、医療機関への支払いについて、信頼を勝ち得ているのだ。
フジイ技術部長も「こうした動きが、今後活発化してくるかもしれない」と将来を見据える。ただ年金生活者の家計を圧迫しかねず、定着するかは不透明だ。市民、政府、保険会社、医療従事者を交え、新たな枠組みづくりを構築していかなければならない。同技術部長は言う。「出口が見えない」。(おわり)