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実録・サンパウロ市ハンバーガー戦争1

グルメクラブ

2005年10月14日(金)

 どうしてケチャップなのだろう。リオデジャネイロが大好きなわたしだが、許せないこともある。ピザにケチャップをかける悪習がはびこっていることだ。
 オリーブ油派として、それを軽蔑している。イタリア系が主流のサンパウロには本場顔負けの味を誇る店が多いので、味と見た目を台無しにする(と思う)ケチャップ派は少ない。
 「ピザとシュラスコは、サンパウロ以北の州では食べてはダメ」とまことしやかに信じられている。
 ピザは事実だろう。いや、良いものもあるのだがケチャップをかけて食べているようじゃ。
 カウボーイスタイルで焼かれ、サービスされるシュラスコにやや難がある店が目立つものの、リオの肉料理は総じてうまい。
 そうでなければ、あの肉屋のチェーン店が「イパネマ」と名乗る理由が理解できない。近所に出来たとき、わたしは魚屋の間違いだろうと疑っていた。
 イパネマはビーチサンダルの人気商品の名前になってもいるわけで、どうしても海を連想させる。それでもあえて、肉屋の名前として起用される背景には、リオの肉料理はおいしいという周知の事実が必要になる。
 リオはポルトガル系が多い。ポルトガル伝統の塩漬けタラ料理が名物なのは確かだが、ノヴァ・カペラやコスモポリタといった旧市街のレストランで供される肉料理も名高い。
 またこの間、某料理学校が出版しているブラジル郷土料理の紹介本を書店で見つけたので、リオの代表料理の欄を開いてみた。魚貝料理と一緒に並んでいるのは、ピカジーニョだった。
 サンパウロの食堂でもおなじみだが、あちらのはちょっと変わっていて、ポーチドエッグとバナナのフライが添えられてくる。煮込まれた肉はもっと繊細というか、細切りにされている感じだ。そういうピカジーニョがサンパウロでも食べられるらしい。
 リオに本店のある、ジャルジンス区のポルトガル料理屋アンチクワリウスの「裏メニュー」になっているそうだ。先日のエスタード紙が報じていた。
 ひとくちにいって金持ちのワガママなのだが、手の込んだ高級料理に飽きた客が庶民の料理を一流レストラン(じゃ、行かなきゃいいのに)で注文するケースが最近増加しているという。二千レアルのワインを頼み、「ひき肉を食べたい」などと言い出すらしい。
 それで思い出したのが、日本料理業界の寵児ジュン・サカモトが週刊誌「ヴェジャ」に語っていた言葉だ。「高級グルメの時代はもう終わった」。一人前二百レアル近いすしを出しておきながら、あんたねぇ。とひとりごちていたら、次の言葉が目に飛び込んできて、しばらくあぜんとした。「ハンバーガー屋を開業するための準備を進めている」。
 すしからハンバーガーへ転向か。北島三郎がエルビス・プレスリーになるようなものだ。成り行きを心配したが、兼業するとのこと。で、九月に無事オープン。食べにいってきた。
 まず、ハンバーガーの前にオニオンリング、つまり輪切りタマネギのフライを頼んだ。出てきたのは外見、歯ごたえともなんだかてんぷらのようで、本来のそれらしくない。
 ハンバーガーは牛肉三百グラムのやつにした。トッピング(付け合せ)はすし職人サカモトならではのシイタケとワサビマヨネーズに決めた。十五分後、二本目のビールを飲んでいたとき、シイタケワサビマヨネーズバーガーがどーんと登場した。
 といっても、シイタケとワサビマヨネーズは別盛りだから、適量を挟みながら食べる。たっぷり詰め込んで、大きな期待を込めてがぶり。うわっ、まずい。
 シイタケとハンバーグソース、ワサビと肉の組み合わせは大疑問だった。甚平を金ボタンのブレザーの中に着込んでいるぐらい相性が悪い。さっきのオニオンリングといい、「和風趣味」は空回りしているようだ。
 肉は脂肪分が少ないし、上質。パンやソースも吟味しているらしいが、ハンバーガーの味を、マクドナルドや街の食堂で覚えた世代としては、その本格派の味わいがいただけない。
 ハンバーガーは一流より二、三流でありたい。
 サッカーチームでいうなら、サカモトのハンバーガーはスター選手の集まり、スペインのレアルマドリッドだ。チームワーク(まとまり)が悪い感じがして、わたしの歯車は回転しない。
 サカモトの店は「アンブルゲリア・ナショナル」といい、イタイン・ビビ区レオポルド・コウト・マガリャエス・ジュニオール822にある。電話11・3073・0428。
      ◎
 最近サンパウロ市でハンバーガーをウリにした店に勢いがある。新規開業も相次いでいる。ハンバーガー戦争の模様を三回にわたって追いかける。

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