グルメクラブ
2005年11月25日(金)
大手ビール会社のスコルはその株を上げたのか、下げたのか。
先日、複数のメディアにでかでかと載った。海外への不正送金など金融法違反容疑で四十日にわたって拘留され、釈放されたばかりのパウロ・マルフ元サンパウロ市長がスコル社の缶ビールを飲んでいる写真。
在職中に横領した大金をスイス銀行に預けているとのうわさが絶えない人だ。風光明媚な避暑地で〃ブラジルのスイス〃と呼ばれるカンポス・ド・ジョルドン市のバール(居酒屋)で、憂さ晴らしている図が笑いの種となった。
食卓には缶が三本。スコルのトレードマーク「マル」ラベルが並び、目を引いた。同市は高品質地ビール、バーデン・バーデンの生産で有名なのに、なぜスコルを選んだのだろう。――「マル」フだからかな。くだらないダジャレが思い浮かんだ。
マルフファンはその日、スコルを買いに走っただろう。アンチマルフは不買を決意しただろう。もちろん、どっちでもないという人のほうが多いだろうが、話題の人物がタダで宣伝してくれたともいえる。
で、結論。スコル社は株を下げたかもしれないが、売上げはちょい伸びかなと考えた。同社はカンポス市の、そのバールを表彰すべきだろう。
また報道によると、彼がつまんだのはひき肉とゆで卵のパステル。話のネタに、それを食べに訪れた行楽客が少なからずいるだろう。マルフもまだ捨てたもんじゃないな。
ビール会社がバールを表彰といえば、ボエミア社主催の居酒屋コンクール「ボテコ・ボエミア2005」の授賞式が今月初にあった。サンパウロ市内の名店三十一候補の中から一般投票で優秀店が選出された。
「サービス」や「ビールの提供管理」などの部門もあったが、やはりメインは「名物料理」部門。
一位「イダリナ夫人のタラのコロッケ」(ボリーニョ・デ・バカリャウ・ダ・ドナ・イダリナ)、二位「タラの燻製、オリーブ、タマネギの和え物」(プンニェッタ)と、塩漬けタラを利用した料理が上位を独占した。
朝から晩まで営業しなければいけないバール経営者は、たいてい働き者のポルトガル系であるとのイメージが世間に流布している。その通りかもしれない。サンパウロ一般の食卓にはイタリア系の影響のほうが強いにしても、バールが提供している各種コロッケや揚げ物のルーツは、ポルトガル料理のような気がする。
コンクール参加店の「名物料理」一覧を眺める。「鶏の唐揚げ」「カエルのフライタルタルソース」「うずらの香辛料揚げ」「オリーブ入り肉団子」などは、ポルトガル系ではないかと思う。「アリェイラ」(ポルトガルのソーセージ)も見かけた。
北部マンダキ区にある一位の店を訪ねた。バールは店主の名前がついて、ルイス・フェルナンデスという。一九七〇年創業だ。
メニューはない。バーカウンター上にハム、ソーセージ、チーズ、サラダがずらり。約四十種、市立市場から仕入れたものが中心。それを小皿で取り、店の人に手渡すと「細切り・調味」してくれる。
バーカウンター上に乗ったつまみを盛り合わせる形式は老舗のバールでは珍しい風景ではないが、店の人が細切り・調理してくれるのは初めてみた。ハムやソーセージは一センチ角くらいに刻まれ、黒マスタードが乗っかってきた。
ガラスケース内にはかりっと揚がった肉団子。内側しっとり、オレガノ、トウガラシ、バジル、コショウ、ニンニクの風味が味覚に触れる。ガキの頃に遠足のお弁当で食べた、そんな懐かしい味。
ついでお目当のタラのコロッケ。店主夫人イダリアさんの手作りだ。タラはノルウェー産の塩漬け。塩の抜き加減とジャガイモの煮つぶし方に最大限気を配り、オリーブオイルは「黄金色にするだけのために控えめに使う」という。そうして出来上がるのが目下、サンパウロ随一の居酒屋料理である。
酢で漬けたタマネギやトウガラシの刻みを乗っけて、緑色の小トウガラシを漬け込んだオリーブオイルを振りかけ賞味。このコロッケはタラが多過ぎてもジャガイモ過多でもいけない。その案配が難しいのだが、さすが完成度が高い。
提供の仕方がユニークだった。細長い楕円形のコロッケが横に分断されて出てくる。皿の上にリオデジャネイロの名勝ポン・デ・アスーカルが並んでいる感じと表現できる。
これはリオとサンパウロの中間形ともいえそうだ。リオではタラのコロッケはまん丸、一方、サンパウロではラグビーボールみたいなやつが定着している。
日本で、雑煮に入れるもちの形が関東は四角い切りもち、関西は丸もちみたいなものか……。その訳についてマルっきり知らない。
◎
バール・ルイス・フェルナンデスの住所=アウグスト・トーレ街610。電話11・6976・3556。