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サンパウロ お国自慢料理=おなじみアラブ料理=市民の食卓にすっかり定着

グルメクラブ

9月19日(金)

人種、文化のモザイク都市サンパウロで各国移民の料理を食べる。まずはアラブ料理レポート。

 サンパウロ市でアラブ料理を出す店やその食材屋をよく見かける地域がある。
 サン・ベント、パライゾそしてモエマなどだ。
 全国にアラブ系ブラジル人は約八百万人。その移住の発端は一八八〇年にまで逆上る一方、一九七五年から一九九一年まで続いた中東危機を逃れ来伯した新参者も少なくない。
 そんな彼らの生活の場が先に挙げた地域と重なる。
 サン・ベントは三月二十五日街。一八九四年にタマンヅアテイ川を埋め立て、建設されたこの界隈が商業地区として発展を遂げたのもアラブ系移民の功績によるものが大きい。いまも布生地や絨毯の卸売業を中心に圧倒的な存在感をもつ。
 ブラスのエスタード通りには、イスラム信者のメスキッタ(礼拝堂)がある。パライゾにも同じく。
 モエマは比較的富裕層が多いと思われる彼らが好んで住む地域とみてもいい。アラブ料理の中でも高級とされるレバノン料理店が目立つのもそのせいか。
 また、ヴィラ・カロンにはイスラム教徒の子弟が通う学校(エスコラ・イスラミカ・ブラジレイラ)があるので、こちらにもレストラン、食材店がありそうだ。
 二年前に起きたニューヨークでのテロ事件以降、九月になると中東の信仰、政治に関する話題が目立つが、長い歴史と深遠さを備えるその文化の方にも改めて注目したいところ。 
 とりわけ、料理はサンパウロに住む者にとって、なじみが深い。アラブ料理ファストフード店「Habibs」の分布をみるまでもなく、たいていのバールにエスフィハやキビ・フリットが置いてある。ただ、軽食以外はよく知らない、というのが相場では。
 折しも十一日のこと。洋装関係の問屋が軒を連ねるブラス・ミレル街六二二のアラブ料理レストラン「Abu―zuzu」で風変わりな一品を味わう機会に恵まれた。 
 毎週木曜日にだけ出される「Mulukhieh」(二人前二十六レアル)がそれ。ミント葉のような色と味をした野菜が煮込まれたスープを、牛と鳥の茹で肉、ご飯が盛られた皿にぶっかけながら食べる。
 アラブ料理全般にいえる特徴のひとつである「酸味」がよく効いている。刻んだ玉ねぎが浸るビネガーを加えるのが流儀。
 味の方は北伯を代表するブラジル料理「マニソバ」、「パット・ノ・ツクピー」を足して二で割ったような、と例えられるか。一見気難しそうだが、中東のバザールを彷徨するようなぞくぞく感が口の中に広がる。この野菜、薬草の類らしく食欲不振も吹き飛ばしてくれる。
 アラブ人の主食ホブス(平べったいパン)も付いてくる。ただし、通常よりもからっと焼き上げたそれを小さくちぎったものだ。
 隣人らの食べ方に習えば、これを指先でさらに砕き、ごはんと和えるのであるが好き好きだろう。
 喉越しのお供にビールを注文。周囲からちょっとした視線を感じた。イスラム教に「禁酒の誓い」がある、と思い出したのはその後の話―。
 ほかでは珍しいさまざまな家庭料理を出すことで知られる、ここ「Abu―zuzu」。通り沿いではエスフィハなどが食べられるバールを経営する。
 Rua miller 622、電話3315・9694。月曜日から金曜日の午前七時から午後六時まで営業。土曜日は午後四時まで。