グルメクラブ
10月3日(金)
サンパウロ市三月二十五日街から入ったヴィラにレストラン「Jacob」はある。一九六〇年から続く、レバノン・シリア料理の老舗だ。
先日訪ねた際、店の主人が昼食を取っているのをみた。テーブルに並ぶのは、生肉のミンチにピタ・パン(円形で中が袋状になったパン)のみ、と驚くほど簡素。塩・コショウをふった生肉と一緒に薬味のミント、ネギをパンに挟み黙々と食べている。
イスラム教徒は豚を食べない。肉といえば羊が一般的だ。挽いた肉を串刺して焼くKaftaは有名。ヨーグルトと一緒に煮込んだりもする。
そのほか代表的なメニューにはどんなものがあるだろうか。例えば、レプブリカ広場そばバジリオ・ダ・ガマ街に本店を置く有名店「Almanara」が出す二十二レアルのランチコースはこんな感じだ。
モツァレラ・チーズ、ひよこ豆、玉ねぎなどのサラダ▽焼きなすを潰して白ごまのペーストと混ぜたBabaganuche▽ひよこ豆を茹で白ごまのペーストとレモン汁を加えたHomus▽トマト、パセリ、小麦などの微塵切りサラダTabule▽凝固したヨーグルトのようなパテCoalhada seca▽ブドウ葉で挽き肉ご飯を巻いたものをスープで煮込んだ逸品Charuto・de・folha・de・uva▽ナタウリにご飯と挽き肉を詰め込んだものにトマトソースをかけた一品▽鶏の胸肉、赤唐辛子、玉ねぎを串刺し焼いたMichui・de・frango等等。
一口にアラブ料理といっても、エジプト、シリア、レバノン、トルコ……と多彩である。ただし、中東全域にオスマン・トルコの足跡が刻まれている。かの帝国が西のものを東へ、東のものを西へと伝え広めた。
サンパウロではレバノン料理の看板を掲げるレストランが目立つ。豊富な食材を使ったレバノン料理は中東各地の料理の基本だ。一九二三年からの三年間、フランス統治を受けていた影響もあって洗練されているとの誉れが高い。
「Jacob」では唐辛子と砕いたガシューナッツを合わせたパテHamara、前述のTabule、挽き肉ご飯のブドウ葉巻、それに、潰したそら豆のコロッケFarafelなんかを試食。
食べていてふと気づいたことがある。砕き練りつぶすことを基本にした料理が多くないか。肉にせよ野菜にせよ。
それは普通に切るより手間のかかる作業だろう。あの小さなブドウ葉で一つ一つひき肉入りご飯を包んでいくのも結構な時間を要する。一皿に二十個以上が載ってくるのだから大変なことだ。
こうした料理法はイスラムの女性だからこそ可能だったと思えてくる。文字通りベールに包まれて日常を過すことを余儀なくされてきた彼女たち。家の奥深くにこもり、昼夜、食事の支度に当たった。そんな歴史が、アラブ料理の妙味の秘密といえる。
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Tabule、Coalhada、Homusといった前菜はドミンゴス・デ・モライス街86の「Jaber」などで量り売りしている。メトロのパライゾ駅近く。