グルメクラブ
10月17日(金)
月を見ながら酒を飲む。
そこにあるのは信仰か。風流か。はたまた嘆きや悲しみか。などと考えてしまうのが、どうも日本人の性であるような気がする。
農耕儀礼と結び付いた月見酒の風習は古いし、奈良・平安期の宮廷では「観月の宴」が雅やかに催されていた。さらに、近代以降のわれわれは萩原朔太郎という詩人を同時に抱えてしまった。代表作「月に吠える」に収められた「悲しい月夜」「酒精中毒者(よっぱらい)の死」といった作品を思い返さずにはいられない。
ただ、月に寄せる想いが深いことにはいつの世も変わらない。酒には月のある風景がよく似合う。
このような感慨はしかし多少の違いこそはあれ、ブラジル人の中にも見当たるような気がする。ミナス州北部サリナス市はカシャッサの名産地だが、この辺の農場で、月にちなんだ銘柄が生産されているのがその理由のひとつである。
その名もそれぞれ「満月」「新月」「半月」などという。飲む晩の月(気持ち?)の満ち欠けに応じて飲んでくれ、といわんばりで洒落ている。
「LUA CHEIA」(ジャクルツ農場)は常に評価が高い。色はまったくの透明。無個性な印象を受けるが、口に含んだときの味わいに力強さと奥行きがある。
肥沃さにかけてはブラジル屈指といわれる土地で生産されるのが、「LUA NOVA」(カナダ農場)。サバラのカシャッサ祭りで幾度となく一席を得た名品だ。同じ農場で作られる「SALINAS」とともにバランス良い風味に支持があるようだ。
「MEIA LUA」は前述のジャクルツ農場産。ラベルの月と星が可愛い。ここにはまた、「SO LUAR」なる銘柄もあるが、やはり「LUA CHEIA」が横綱か。このピュアな味わいには気炎が上がる。