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食の話題=ボージョレ・ヌーボー解禁=ブラジルは冷めた目

グルメクラブ

11月28日(金)

 十一月二十日、ボージョレ・ヌーボーが解禁された。ブラジルのニュースではなく、日本からの報道で知った。
 十一月の第三木曜日といえば、解禁日。ブラジルに来てからというもの、そんなことなど、とんと忘れていた。
 仏中部産のこの新酒。半分が輸出に回される。うち三分の一が日本向け。季節に敏感な日本人の初物好きがここにはっきりうかがえるわけだが、十一月の「ボージョレ狂騒曲」はいつも騒々しい。
 それが今年は例年以上だったように映った。
 夏の猛暑の影響で、ブドウが理想的に熟し極上の仕上がりとなったせいだ。ドイツ、アメリカをしのぐ七百万本以上を飲み干す日本国民は歓喜。さらにメディアが大衆の欲望の火に油を注いだ格好だ。
 読売新聞で「二〇〇三年のボージョレ」に関連する記事を探れば、本数にして二十は下らない。特別連載さえ企画されていた。
 ひるがえってブラジルのメディアはどれほど報じただろうか。皆無に近い。両国の温度差がよく分かる。
 久し振りにボージョレの懐かしい名前を思い出したので、解禁日当日、さっそくサンパウロ旧市街に酒屋を訪ねた。
 店員は「解禁日?知らないね。多分、うちでは十二月に入荷すると思う。クリスマスや年末年始のフェスタの時期に合わせて」と思いのほか鈍い対応ぶり。
 そこで、ワイン専門の輸入代理店「Mistral」(電話285・1422)のベルを鳴らした。世界各地のワイン二千五百種以上を扱う。酒屋というより執務室の名がその店内にはふさわしい。
 「はい、ご用意してあります。十四日のKLM航空七九七便でクンビッカ空港に到着しております」
 同店では「Joseph Drouhin」のボージョレとボージョレ・ヴィアージュのみを扱う、という。前者が約二十六ドル、後者が二十八ドル前後。
 ボージョレには四つの統制呼称があって、単なるボージョレに始まり、ボージョレ・シュペリュール、ボージョレ・ヴィラージュときて、クリュ・ボージョレが最も格が高いのだ。
 提示されたドル価格をレアルに換算すると七十五~八十レアルになる。ブラジルでこの数字はかなり割高感がある。
 ボージョレは確かに名産地ブルゴーニュのワイン。とはいえ、そのブドウは高貴品種のピノ・ノワールではなく、量産に向いたガメ種を使っている。
 渋みが少なく酸が多いので飲みやすいのが特徴。バーなんかで少し冷やしたものをガブガブ頂くのに向く。熟成には適さずあくまで絞りたてを愛でるだけのワインだ。
 「少し高いですね」と記者。「ユーロ高と航空運賃のせいです」と店員はあっさり。二〇〇〇年と比べると、値上げ幅は十ドルにもなる、という。
 ボージョレ・ヌーボーの値段の大半を航空運賃が占める、とは有名な話だ。時差の関係で最も早く解禁日を迎えるのは日本。それが優越感をくすぐるか、高い金を払って文句ひとつ聞こえてこない。それどころか、日本人の顔は「旬味にはつい財布の紐も緩んじゃって」と実に満足げ。
 対してブラジル人は堅実派が多勢を占める。初物だからといって浮かれていない。店員の説明では「値段のせいか毎年それほど人気があるわけでない」。よって入荷数も百六十本に限定している。
 「Joseph―」はしかし試飲に値する一本だろう。華やかな果実実は圧倒的。オーナーは女性のようで、そこに求める味は力強さよりもエレガンス。
 いわく、「控えめででしゃばらず、テロワール(畑の土壌、風土)を持って語らせるだけの度量がある)と。
 こちらをボージョレの女王とすれば帝王は「Gerorges Duboeuf」。ブラジルでは「Franco―Suissa」(電話5573・7888)で扱っている。日本のボージョレ市場の三割を占めるメーカーで値段もリーズナブル、安定した品質が期待できる。
 もっとも有象無象が目につくのがボージョレの世界で、スーパーのポン・デ・アスーカルで特売されていた一本はこの類に入りそう。特別便で空輸しているうえに、中間業者が介在して、四十五レアルとは。中身は一体幾らなのか。
 朗報がある。船便を待てばクオリティーの高い商品も比較的廉価で飲むことが出来るのだ。ただし、ボージョレ・ヌーボーは一般にブドウを摘んでから六ヵ月以内に賞味すべき、とされる。今年は八月末には収穫を完了しているので二月一杯がその期限。
 フランスからの船便が着くのを待つか、惜しまず身銭を切るか。ワイン党には毎年巡ってくる命題である。