グルメクラブ
11月28日(金)
その昔、甘しょ酒作りが盛んだったイグアッペ・桂植民地の出身者にこんな話を聞いた。
「『51』なんかが市場に出回る前はね、作り手もずいぶん多かった」と。
大手メーカーの登場以降、多くの個性的な生産者が製造から手を引いたことを暗にほのめかしている。
「51」こと「Caninha51」の歴史は、文字通り一九五一年に始まり、現生産元のミュレル社が製造に乗り出すのは一九五九年からである。
カシャッサといえば「51」というまでに成長した今日、同社はサンパウロ州ピラスヌンガとレシーフェに工場を構えるが、その様子はさながら石油化学コンビナート。一見したところではとてもカシャッサの蒸留現場にみえない。
「51」のほかに、「Caninha29」「Terra Brazilis」の名前で売り出しているカシャッサも製造する。総生産量は年間三億リットル(二〇〇二)で国内生産(同)の二割以上を占めるというから驚く。
これでは職人気質のメーカーはどんどん淘汰される一方―と嘆きたくなるが最近は事情もだいぶ変わってきた。国内外でカシャッサが再評価されるようになってからは共存共栄できる環境が整いつつある。
単純に比較して、昨年は大手業者が十億リットル、手工業者が三億リットル生産した。それが今年は前者が横ばい、後者は二億リットルの生産増を見込む。その差は確実に縮まってきているとみていい。
ただ、輸出量の差は一段と広がっている。資本力の違いといってしまえばそれまでだが、ここでは両者の戦略に注目したい。
見本市にいけばすぐに気付くことだが、製品のクオリティに自信をもつ手工業者はあくまでも生で飲むことを薦めてくる。これに対して大手はいかに自社製品をカクテルとして生かすかに情熱を傾けている。
いまや大手のカタログをみれば各種カイピリーニャのレシピで一杯だ。初めから海外市場がその視野にあるので英語表記だって珍しくない。
そうした手法で売り込んでいる一本に「Samba&Cana」がある。ラベルはムラッタのサンビスタ。もっともここは大手と呼べない。ミナス州各地の手工業者から集めたカシャッサをブレンドする珍しい業者である。
カクテルに使用されることを念頭におきカシャッサの味を調合する。消費者の裾野と嗜好が広がる目下、適宜な試みといえよう。