グルメクラブ
2月6日(金)
カシャッサに漬けたリングイッサを焼いて食べると案外旨い。柔らかくなるうえ、持ち味が増すようである。ほんのりと酒が香り、食欲を刺激してくれる効用もある。 むかし、硬い豚肉の繊維をほぐし食べやすくするのにサトウキビ焼酎を用いていた時代がある。雄豚はカシャッソ、雌豚はカサッシャと呼ばれ、ついでその酒も同じように呼ばれた。 いかにも植民地時代の大農園の風景が目に浮かぶような由来話である。スペイン語のブドウ焼酎「Cacha za」を語源とする説もみかけるが、こちらでは話題として味気ない。 料理酒であり奴隷たちの疲れを癒した酒が後年、農園主の食卓に上るようになるのは、奴隷たちの中に質の高いカシャッサを造るものが出てきたせいだろう。名匠はどんな世界にも生まれ出でる。 と思っていたところ、ミナス州ジェキチーバ産の銘酒「Isaura」の歴史を知り、溜飲が下がる思いがした。こんな風である。 ある奴隷がいた。心やさしい農園主に雇われていたのが幸い、解放後、土地の一部を譲り受ける。彼はさっそく蒸留所を設けた。もともと名うてのカシャッサ造りで知られていたのだ。出来上がった品には妻の名前をつけた。それが今日の「Isaura」の始まりである、と。 この呼び名に、七六年から七七年にかけグローボ局で放映された「Escrava Isaura」を連想する人も多いだろう。舞台はドン・ペドロ二世統治下のリオ、白人農園主への恋心に目覚めた黒人奴隷女の話だった。 原作はベルナルド・ギマラネス。ブラジル文学はよくドラマ化されるが、この作品は最も成功した例だという。中国の大衆、キューバのフィデル・カストロの心までもつかんだ、そうである。 「Isaura」もかつてのドラマ同様、広く親しまれつつある。というのも、元奴隷が地方の農場で造り始めたとはいえ、いまや企業。販促活動に怠りはない。度々開かれる見本市で常に存在感がある。ホームページは充実、親切にも英訳まである。 豚肉を柔らかくするのにカシャッサが使われたと書いた。時代は変わり、ジャム、トリュフ・チョコレート、ゼリーなどと、その用途は広がっている。とくにここは営業熱心なようで、そうした菓子類を製造するほか、カシャッサを納める木箱や専用コップといった関連商品も販売する。 奴隷制・植民地時代のカシャッサも遠くになりけり、だ。